本研究では壱岐,対馬,沖ノ島(宗像大社)に関係するガラスを対象とし,日本へのガラス流通について考察することを目的とした.ガラスの調査には,可搬型分析装置を用いて非破壊オンサイト分析を行い,化学的にアプローチした.平成29年度までに壱岐,対馬の調査を実施しており,平成30年度は宗像大社に収められているガラスの調査を実現することができた.分析した資料は以前行われた発掘調査によって発見されたものであり,今回はじめて化学的な調査を行うことができた.今回の調査では約60点のガラス玉を分析することができ,今後につなげる調査となった.宗像大社のガラスの調査結果は,本報告書執筆現在は解析中であるが,化学組成的に多様なガラスが存在し,アジア各地で製造されたガラスがもたらされていたことが明らかになった.宗像大社での調査の実現によって,当初から掲げていた本研究目標を達成することができた.さらに,今後につなげられる成果が得られたことは,当初の目標以上の発展があったといえる.具体的な成果について触れると,本研究で調査できた範囲で考察する限り,壱岐と対馬のガラスについては国内出土ガラスの組成変遷と同様な出土傾向があることがわかった.また,対馬では国内に類例があまりない,無色透明ガラス玉の分析データを得ることができ,ガラス流通を考察する重要なデータを得ることができた.本研究で,壱岐,対馬,沖ノ島(宗像大社)に関するガラス流通を概観することができた.今後さらに深めていくとするならば,宗像大社を取り巻く宗像地域などにも視野を広げる必要があると考えられる.これらの成果については,平成29年度報告書執筆時に解析中であった対馬のガラスデータの解析を終え,論考として発表した.現在解析中である宗像大社で測定したデータも解析を終え次第,同様に論考としてまとめていく予定である.
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