研究実績の概要 |
本研究の目的は、弱重力レンズ効果を用い、観測データから銀河団質量を正確かつ精密に測定し、銀河団の数と集積度合い(クラスタリング)を、宇宙論的シミュレーションで比べることにより、宇宙論パラメータを制限することである。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)やバリオン音響振動(BAO)、超新星爆発の光度-距離測定などの、他の宇宙論データと組み合わせながら、素粒子論的に重要なニュートリノ質量和や、性質がよくわかっていない宇宙の加速膨張を引き起こしているダークエネルギーの時間発展の有無、ダークマターの相互作用の有無を、銀河団という宇宙の構造形成の速度と銀河団周りのダークマター分布から、世界最高精度で制限することが究極的な目標である。 平成29年度では、上の銀河団を使った宇宙論の制限に必要不可欠な、可視光観測量-銀河団質量関係を制限する新しい手法を開発し、申請者が筆頭著者としてアメリカ天文学会にて、論文を発表した(Murata et al., ApJ, 854, 120, 2018)。銀河団質量は、望遠鏡のサーベイデータの直接的な観測量ではないので、質量に相関している銀河団の赤い銀河の数(リッチネス)と銀河団質量の関係の、平均関係とその周りのばらつきの関係を制限する必要がある。従来の弱重力レンズ効果のみをつかった解析手法とモデリング(e.g. Simet te al., 2017, Melchior et al., 2017)では、平均関係はデータから制限できたが、その周りのばらつきの関係を制限することはできず、宇宙論解析をするには、このばらつき関係に強い仮定(prior)を課す必要があり、銀河団を使った宇宙論解析の信用性に関わる大きな問題になっていた。Murata et al.では銀河団の数を加えて解析することで、ばらつき関係も制限できることを、世界で初めてデータを使って示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、銀河団を使った宇宙論のために必要不可欠な可視光観測量-銀河団質量関係式を制限する手法と計算コードを作成し、実際にスローン・デジタル・スカイ・サーベイに適用し、平均関係とそのばらつきの関係をデータから制限することに成功した(Murata et al., ApJ, 2018)。その結果を基礎とし、現在解析に使っている銀河団の数と弱重力レンズ効果に加えて銀河団の2点相関関数も解析対象に入れることで、宇宙論パラメータを制限する準備を整えることができたので、順調に進展していると考えている。
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