平成29年度は、平安時代中期における皇族・貴族の荘園と国司の任命権である年官の関係を分析した。その結果、平安時代中期における皇族・貴族は、年官を利用することによって、地方有力者との人的ネットワークを形成・良好化し、彼らに荘園管理を任せることで、安定した荘園経営を実現させていたことを明らかにした。 これまで、平安時代中期の地方社会の説明は、国司長官による支配という文脈で語られてきた。しかし、本研究の成果により、これまで不明瞭であった平安時代中期における皇族・貴族領荘園の様相が具体的に明らかになったことで、当該時期における地方社会の在り方に対する従来の理解に新たな知見を提供することができた。この点は大変意義あることだと思われる。それと同時に、この研究では、中央と地方を一体的に捉えて荘園を検討しており、中央と地方の連関を具体的に実証した点にも意義がある。これは、これまでの学説に再検討を迫る意味を持っている。 また、本研究では、任官史料と荘園史料を組み合わせて考察する方法を採用しており、この研究方法はこれまで無かったものである。そして、この研究方法によって成果が得られたことにより、この方法が有効であることを実証することができた。このことは、近年、停滞気味であった平安時代の荘園研究に新たな研究視角・方法を提供したことになり、これによって、荘園研究が進むことが予想される。この点においても、本研究の成果は重要であると考えている。
|