研究課題/領域番号 |
17J00703
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田川 翔 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 地球中心核の軽元素 / 超高温・高圧実験 / レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル / 鉄-水素二成分系 / コアーマントル分離 / 相平衡状態図 |
研究実績の概要 |
水素は地球中心核の軽元素か?その仮説の検証を目指し、Fe-H二成分系の超高圧・高温実験を行うのが、本研究の目的である。近年の惑星形成理論と地球化学的研究から、地球形成初期に多量の水が地球にもたらされた可能性が示唆されている。それらの水は分解し、コアーマントル分離プロセスを経て、水素が地球中心核に取り込まれたと考えられる。 しかし、Fe-H系の先行研究は、実験の困難さのため数が少なく、仮説の検証は出来ていない。申請者は今年度、1、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いたFe-H二成分系の実験手法開発を行い、2、各圧力・温度・水素量におけるFe-H系の相関係を決定した。 【1、技術開発について】DACを使用したFe-H系の実験には、既知の問題として、ダイヤモンドへ水素が侵入して割る点、水素に不飽和(H/Fe比が0.6程度)なFe-H合金を合成できない点、水素源等からのコンタミネーションが起きやすい点、が挙げられていた。申請者は、その三点について、ダイヤモンド表面の水素侵入防止膜の改良、試料室・ガスケット構造の改良、鉄水素化物の合成条件の調整により解決した。現在、130万気圧、2500 Kに到達しており、今後、地球中心核条件での実験を目指している。 【2、Fe-H系の高温高圧下相関係について】開発した手法を用い、130万気圧、2000KまでのFe-H系の相関係を決定した。これまで考えられてきたdhcp FeHxではなくfcc FeHxの安定領域が広く存在すること、水素量が小さい領域ではhcp FeHxが安定となり、水素があるとしても内核物質はhcp構造である可能性が高いこと、fcc FeHxとhcp FeHxの間に共融点(または反応点)が存在すること、の三点が本研究で明らかになった。 本成果は国際科学研究誌へ投稿準備中であり、また、平成29年度に開催された国際学会にて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の成果として、Fe-H二成分系の実験手順を確立できた点、超高圧・高温下でのFe-H系の構造を明らかにできた点の二点が挙げられる。特に前者は、本研究課題の基盤となる重要な手法開発であり、今後二年間の研究の見通しがたったという点で大きな進捗であると考える。 また、技術開発との相性から、平成30年度に予定していたテーマである「状態図の構築」を平成29年度に前倒しして実施し、Fe-H系の超高温・高圧下での相構造を明らかにした。該当する成果については、国際学会(HPMPS-9)にて口頭発表、国内学会にてポスター発表を行った(後者の発表に関して優秀賞を受賞)。以上により、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果を踏まえ、平成30年度に取り組むのは、次の3点である: 1、平成29年度分の成果の国際学術研究誌への投稿、2、高温高圧下でのFe-H系の状態方程式(Equation of state)の構築・融解温度の決定、3、第一原理計算による鉄中の水素の挙動の解明。それぞれについて詳細を記載する。 1、については、現在、投稿用意中である。 2、については、現在、第一原理計算でしか求められていない水素に不飽和(H/Fe比が0.6程度)なFe-H系合金の状態方程式の構築を目指す。現在は、dhcp FeHの圧縮曲線が135 GPaまで常温で決まっているものの、地球中心核の議論にはより高圧・高温での実験結果が必要である。昨年度開発した実験技術を更に発展させ、地球中心核条件での状態方程式の構築を目指す。 3、については、該当研究領域に強みを持つUC Berkeleyのグループとの共同研究プロジェクトを行うことで、第一原理計算から固体Fe-H合金中の水素の振る舞いを調べる。特に、DACを用いた実験的手法と相補的である、地球内核条件下での計算シミュレーションを行う。超高温・高圧下では鉄中の水素の拡散が卓越することが予想されており、その現象が起きる条件や、現象が弾性波速度等の物性に与える影響を調べる予定である。
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