研究課題/領域番号 |
17J00704
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
吉田 直人 関西大学, 総合情報学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ロボット / 疑似生理現象表現 / 情動表出 / 覚醒度 / 感情価 / 感情体験 / 親近感 / 敏感性 |
研究実績の概要 |
本研究は,生理現象を用いたロボットの豊かな感情表現を可能にする身体感情モデルの構築と,生理現象に基づいた人間とロボットの感情インタラクションの実現を目指すものである. まず,予備調査に基づく一般的な小型犬サイズのロボットに搭載する生理現象表現機構の設計および各機構の動作モデルに基づく制御プログラムの実装を行い動作を確認した. 次に,生体メカニズムに基づいた生理現象による感情表現モデルを設計し,生理現象表現機構の動作に反映した.外的情報知覚に基づく脳における情動・記憶の処理とそれによる自律神経の活性など,身体内部の生理学的状態の変化により生理現象が生じるメカニズムを参考に,ロボットのための情動と生理現象発生の簡略化モデルを設計した.これに基づき自律神経パラメータなどの各パラメータを設定し,生理現象をコントロールするプログラム上で数値の変化を確かめた. 次に,各生理現象パラメータを変化させ,SD法を用いた調査に基づく因子分析による感情要素の抽出と変化を調査した結果,いずれもラッセルの感情円環モデルにおける感情の覚醒度に影響を与える可能性が示された.また,各生理現象パラメータの制御によりロボットが表現する覚醒度の増減に影響することが示された.さらに,ロボットの覚醒度パラメータを要因とし,ユーザの感情に与える影響を評価した結果,視覚コンテンツ視聴時のユーザの感情的体験の覚醒度に影響を与えることが示唆された.また,その際にロボットに対する親近性や敏感性の印象を向上させる可能性が示された. 検証の結果をうけて,ロボットの生理現象においてこれまでの評価で現れなかった感情価(快-不快)に対応する生理現象要素に関する調査を実施し,複数の仮説を立て呼気/吸気比率および心拍変動に関して予備的検証を行った結果,呼気/吸気比率が感情価に影響する可能性が示唆されたことから,今後詳細な検証を実施する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき,本年度は,①呼吸・心拍・体温などの生理現象の表出機構の設計およびそれらを搭載した小型犬ほどの大きさのロボットの新規実装,②生体メカニズムに基づく動作モデル設計,③ロボットの生理表現により表出される感情要素の検証および分析を実施,④ロボットの生理表現がユーザの感情に与える影響の評価,および⑤ロボットの印象に与える影響の評価を実施し,モデルの改良および今後取り組むべき課題について議論した. ①生理現象表現機構ロボット-③における検証準備および検証の実施に関しては、予定通り行われた.一方で,③の検証における仮説では,ロボットの生理現象によって表出される感情として,覚醒度と感情価(快―不快)の要素が得られると想定していたが,提案手法における生理現象表現設計においては,覚醒度因子のみが抽出され、感情価要因との関係性は明らかにならなかった.このため,感情価に関わる生理現象についての調査を行い,ロボットの呼吸を呼吸速度と呼気/吸気比率の2要素に,心拍を心拍数と心拍変動の2要素に細分化し,これに対応する生理現象表現設計を行った.この仮説を検証するための予備的な検証を実施した結果,呼気/吸気比率が感情価に影響する可能性が示唆された. また,同時に④および⑤のロボットの生理現象によるユーザ感情体験およびロボットへの印象に関する検証を行った結果からは,視覚コンテンツ視聴時のユーザの感情的体験の覚醒度に影響を与えることが示唆されたほか,体験を共有したロボットに対する親近性や敏感性の印象を向上させる可能性が示された. これらの実施状況および得られた成果より,本研究課題に関しておおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,生理現象表現ロボットの改良および,生理現象によって表出される感情の分析と基礎検討から,生理現象を用いたユーザへの影響という応用に向けた予備的検証を行った. 特に,ロボットの呼吸・心拍・体温から成る感情表現がコンテンツに対する特定の感情を増幅あるいは抑制し,ロボットに対する親近性や敏感性の印象を変化させる可能性が示されたことから,対話や身体動作などのロボットの随意表現ではなく,生理現象という不随意な感情表現であってもユーザの感情に影響を与えることができるという重要な示唆が得られたと考えられる.これによって,ユーザが接触しているだけのアンビエントなコミュニケーションによって,ユーザがロボットと積極的に対話を行わなくとも,ユーザとロボットの関係構築促進が期待される. 本年度の取り組みでは,予備検討によって抽出された覚醒度の感情に着目して,先行してユーザの日常生活における感情体験・ロボットの印象への影響に関する調査を行った.追加の調査およびシステムの改良によって,ロボットの生理現象表現に関する提案手法を用いて,ロボットの感情価の情動表現の可能性が示唆されたことから,今後の方針として,既存のロボットの生理現象における感情価と覚醒度表現の2パラメータ制御に基づく,ユーザとのインタラクションを設計し検証を行う.また,システムによるユーザの生理現象状態の取得とそれに応じたロボットの生理現象フィードバックに関する調査を行う.ユーザの生理現象状態の取得に関しては,ウェアラブルデバイス等を用いたユーザの生理現象取得および生理データの処理システムを構築し,生理指標データに基づくロボットの生理現象表現動作生成を行う.
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