前年度の時点で、観測に基づく再解析データの統計解析などから、MJOの発生領域の決定には「海面水温 (SST) 分布によって部分的に強制されるMJOよりも長い時間スケールでの背景循環場」が重要であることが示唆されていた。これを踏まえ、本年度はこの知見の物理的理解および頑健性の検証に焦点を当て、引き続き再解析データを解析しつつ、全球雲システム解像モデルNICAMを用いた長期間の数値実験とその結果の解析を行った。 再解析データの解析から、1) MJOの発生領域によらず、その発生前には主に季節内の時間スケールでの東西循環に伴って水蒸気蓄積が促進しやすい場が形成されること、2) 東西循環が確立されやすい位置が背景循環場と連動して変調することがMJOの発生領域の決定に影響すること の2点が仮説として得られた。2) に関連して、インド洋でMJOが頻繁に発生する北半球冬季の平均的な状態に比べて、海大陸域 (西太平洋) でのMJO発生時には、SSTの経年変動成分が東部太平洋型のエルニーニョ (中央太平洋型のエルニーニョかつインド洋南東部での双極的構造) を伴う傾向にあったことを踏まえ、そのSST分布を模したものをNICAMの境界条件に設定し、15年間の季節固定実験 (北半球冬季) を複数実施した。その結果、いずれの実験でもMJOは自発的によく再現され、各実験間でのMJOの経度方向の発生確率分布の違いは、観測と整合的かつ統計的に有意であった。これは上述の2点の仮説の双方を支持するものであり、MJO発生領域の多様性の要因を初めて提唱するに至った。本内容は博士論文の一部としてまとめられ、国際誌への投稿論文として間もなく投稿できる段階にある。 前年度の主要な成果である「MJOと混合ロスビー重力波とのスケール間相互作用」については、その一般性を論じた論文を国際誌に投稿し、査読過程での改稿中である。
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