研究課題/領域番号 |
17J00731
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
寺田 隆広 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 原始ブラックホール / 重力波 / ユニタリティ / ケーラー曲率 |
研究実績の概要 |
研究実施計画の内、「インフラトンの散乱振幅のユニタリティからの制限」や「原始ブラックホール(PBH)及びその生成に伴う重力波」についての研究が進展した。以下、これらを順番に報告する。 超対称性理論で超対称性を自発的に破る模型では、ケーラー曲率と呼ばれる、場の高次項補正を適切な符号で導入する必要がある場合がよくある。その項が、超対称性を破る真空の安定性や、宇宙のインフレーションの予言に影響を与えるからである。ある条件の下では、量子論的に確率解釈が成り立つという要請(ユニタリティ)からケーラー曲率の符号が決まってしまう事を示した。これにより、研究の目的である超重力理論におけるインフレーションに対する理論的制限が得られた。ただし、これは高エネルギーで有効理論がどのように基礎理論に補完されるかという仮定に強く依存し、又、具体的なインフレーション模型に直接応用できるとも限らない成果である事に注意する必要がある。 次にPBHに関連した重力波の研究の成果について述べる。PBHはその質量に応じて、暗黒物質の候補であり、重力波の直接検出事象に繋がった連星ブラックホールの起源の候補でもある。PBHが生成する為には大きな原始曲率揺らぎが必要で、それは一般相対論の効果により重力波も生み出す。この原始曲率揺らぎに由来する重力波スペクトルの模型非依存の部分について、解析的な計算を行った。数値計算に頼らない事によって、各種パラメターへの依存性も一目瞭然となり、より簡単にスペクトルを計算する事ができるようになった。 PBHが作られた後、連星を形成し、最終的に衝突合体する際にも重力波が放出される。曲率揺らぎ由来の重力波と併せて、将来の重力波観測によりどれだけPBHの存在量を制限できるかの予測も行った。これら重力波の研究は、研究の目的でも触れた様に超重力理論に限らず成り立つ汎用性の高い成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画のうち複数の項目について研究成果があり、複数の論文としてまとめる事ができた。幾つかは、特別研究員申請時など初期の研究計画では具体的に計画していなかったような成果でもあり、期待以上に進展したと言える。その代わり、当初の研究計画の内のいくつかは進展していないものもあるので、上記の区分が適切であると判断した。例を挙げると、グラヴィティーノの散乱振幅のユニタリティーから冪零超場を使った理論の有効なスケールに制限を与えるという計画の代わりに、一般的なカイラル超場に含まれるスカラー場の散乱振幅のユニタリティーからケーラー曲率の符号に制限を与えるという進捗を得た、といった具合である。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目の研究の目的で記した様に、現状でLHC実験(現在最大の加速器実験)から標準模型を超える物理への明示的なヒントは得られておらず、超対称性理論・超重力理論に限った事ではないが、従来考えられていなかったような幅広い可能性も検討していく事が求められている。その為、研究課題の「超重力理論におけるインフレーションの最前線」について研究を推進しつつも、より広範の理論に当てはまる一般的な成果も同時に出す事ができれば有用である。そのような成果として、今年度に重力波に関する研究が著しく進展した。この成果は更に拡張・発展が可能であり、最終年度の推進課題の一つとする。 その一方で、やはり超重力理論に根ざした宇宙論的な考察についても行う。特に、超重力理論や超弦理論では指数関数型のスカラーポテンシャルが頻繁に現れる。また、超対称性の破れが無ければポテンシャルはゼロか負の値をとり、超対称性の破れを取り入れても全領域でポテンシャルが非負になるとは限らない。このような状況でインフレーションの前の超初期宇宙、あるいは第二のインフレーション期とも言える現在の暗黒エネルギー期の後に訪れる未来の宇宙において、どのような現象論的・宇宙論的帰結が得られるかという研究を推進する。 これを執筆中の時点では、正の空間曲率(とポテンシャルが負の場の領域)があれば、宇宙が膨張から収縮に転じ、また膨張に戻り、かつインフレーションを起こすといった極めて非自明なダイナミクスが起こり得る事が研究成果として判明している。ここに指数関数ポテンシャルを適切に組み合わせれば、更に非自明・複雑な膨張・収縮史が得られると考えられる。また、このような宇宙の収縮も含めた時間発展の際にヒッグス場やアクシオン場などのスカラー場がどのように時間発展するのか、そして素粒子現象論的に意味のある効果を生み出すかといった観点からも、このシナリオの帰結を調べたい。
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