2019年度には、4本の原著論文の執筆、3件の招待講演、5件のセミナー発表に加え、多数の学会発表を行なった。本年度は共同研究を積極的に行い、(1)量子アルゴリズムの開発、(2)非平衡ダイナミクスにおける誤差評価、(3)熱化を伴わない特異的な量子多体模型の固有状態、の3点に関する研究を行なった。ここでは、特に(1)に関して記述する。
(1)量子アルゴリズム開発 近年の量子情報処理技術の発展によって実現されつつある、誤り訂正機能を持たないようなO(10) - O(100)個の量子ビットから構成される量子デバイスのことを、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)デバイスと呼ぶ。その量子性を活用することで、最先端のスーパーコンピュータでも不可能な大規模計算を実現できると期待されている。特に、量子開放系が長時間後に到達する「非平衡定常状態」は、量子デバイス設計を含めた産業応用の観点からも非常に重要だが、NISQデバイスを用いて求める手法は知られていなかった。 株式会社QunaSysとの共同研究である本研究では、量子コンピュータを用いて非平衡定常状態を求めるアルゴリズム"dissipative-system Variational Quantum Eigensolver"を提案した。これにより、孤立系における基底状態を求める変分量子アルゴリズムであるVQEが、さらに広範な系に適用可能となった。論文では、提案手法のデモンストレーションとして、数値計算による動作シミュレーションと、量子コンピュータの実機を用いた実験結果を示している。特に後者では、Rigetti computing社が提供するクラウド型量子コンピュータ"Rigetti Quantum Cloud Service"を用いてdVQEによる非平衡定常状態を計算し、理論予測と一致することを確かめた。
|