研究課題/領域番号 |
17J00756
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
玉手 亮多 横浜国立大学, 工学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ブロック共重合体 / イオン液体 / イオンゲル / 光応答性 / 自己修復 / 光修復 / 光二量化 |
研究実績の概要 |
光二量化により動的に化学架橋点を導入可能な温度/光応答性イオンゲルの創製を実施した。分子設計は、温度によってゾル-ゲル転移を起こすABAトリブロック共重合体の温度応答性セグメントに光二量化官能基であるクマリン基を導入した化学構造である。高分子の重なり合い濃度以上でこのABAトリブロック共重合体は高温でゾル、低温でゲルとなるゾル-ゲル転移を示す。形成した物理ゲルにUV光を当てると、物理ゲル中のミセルコア内でクマリン基の光二量化が起こり、物理ゲルから化学ゲルへ変化する。この設計により、光照射を用いた成型性の高い温度応答性物理ゲルから強靭な化学ゲルへの変換を達成できた。これを利用して、フォトマスクを用いた選択的な光照射によるイオンゲル薄膜のパターニングに成功した。簡便なイオンゲルの光パターニング手法として、プリンタブルエレクトロニクス材料への貢献が期待される。 更に、イオン液体中での光二量化を可逆な架橋点として利用した、光修復性イオンゲルの創製を試みた。末端にアントラセンを修飾した四分岐高分子を合成し、イオン液体と複合化してUV光を照射することで、末端アントラセンの光二量化により化学架橋イオンゲルを創製した。このイオンゲルに機械的な入力が加わると、歪んだ炭素結合を持つ光二量化部位の結合が選択的に開裂すると考えられる。実際に、イオンゲルを切断したのち、温度をかけることで切断面のアントラセン単量体を増加し、その後UV光を再照射することで、切断面が修復した。また引張試験から修復後のイオンゲルは優れた破壊強度を維持することが確認できた。 加えてアゾベンゼンを含有したABAトリブロック共重合体の光異性化を利用したゾル-ゲル転移の物理化学的な起源の解明、少量のアゾベンゼン含有イオン液体を分子トリガーとする温度応答性ABAトリブロック共重合体イオンゲルの光誘起ゾルゲル転移の実証を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は研究開始一年目であるが、当初の計画の一つであった、光二量化を用いた物理架橋イオンゲルから化学架橋イオンゲルへの変換が可能なABAトリブロック共重合体の設計に成功した。また光二量化官能基を末端に持つジブロック共重合体ミセルからなる光修復可能なイオンゲルに関しては、合成の簡便性なども勘案し、まずは四分岐ポリエチレングリコールの末端を光二量化官能基であるアントラセンで修飾するという設計から始めた。その結果、切断面への光照射を用いたイオンゲルの光修復に成功した。 更に、上記の当初予定していた研究に加え、アゾベンゼンの光異性化を利用したABAトリブロック共重合体の光修復に関して、その物理化学的なメカニズムの解明を実施した。またこれまでABAトリブロック共重合体に含有されていたアゾベンゼン基を溶媒であるイオン液体に修飾することで、少量のアゾベンゼン含有イオン液体の光異性化を用いた温度応答性ABAトリブロック共重合体からなるイオンゲルの光誘起ゾルゲル転移に関しても報告している。 以上の結果を含めて1年目の成果として関連論文3報、学会賞受賞2件を得ており、当初の計画以上に進展していると結論付けられる。
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今後の研究の推進方策 |
光二量化を用いた物理架橋イオンゲルから化学架橋イオンゲルへの変換を利用したイオンゲル薄膜のパターニングに関しては、薄膜の厚みや光照射などのパターニング条件、およびブロック比などの化学構造を最適化することで、マイクロメートルスケールのパターニングの達成を目標とする。 光二量化を用いた光修復性イオンゲルに関しては、現在のところ光修復には24時間程度の長い時間を必要とするため、今後は光二量化官能基の最適化や、当初の予定であったブロック共重合体ミセルの末端に光二量化官能基を導入することにより分岐数を増大させることで、より光修復時間を短縮し、物理特性の向上を図っていく予定である。 また、アゾベンゼン含有ABAトリブロック共重合体からなる光修復性イオンゲルに関しても、長時間の光照射が必要となるため、ABC型のトリブロック共重合体を用いることで、より高速な光修復を目指す。
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