研究課題/領域番号 |
17J00758
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
渡邊 寛 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 男性役割 / 精神的不健康 |
研究実績の概要 |
本年度は,男性役割と個人内の葛藤と精神的健康の関連(a)および男性役割と他者からの期待による葛藤と精神的健康の関連(b)を検討する予定であった。また,次年度に,男性役割による葛藤と対処行動との関連の実験的検討(c)と,男性役割と影響要因の関連の検討(d)を予定していた。 このうち,(a)および(b)を検討する前に,面接調査を行った(男子大学生N=23,社会人男性N=15)。その結果,男性役割を自分で意識したエピソード(aに相当)が約6割で,他者から男性役割を求められたエピソード(bに相当)が約4割であった。これらを基にして,まず(b)に関して2つの調査を行った。第1に,働いている社会人男性を対象に調査を行った(N=820)。その結果,上司から男性役割を求められることで,職務肯定感が低下し,上司への不信感や職場の居心地悪さが高まり,精神的不健康を高めていた。第2に,配偶者がいる社会人男性を対象に調査を行った(N=619)。その結果,配偶者から男性役割を求められることで,育児をせず,会話時間が短くなり,夫婦関係満足度が低下し,精神的不健康を高めていた。(a)については,量的調査は実施されなかった。 (c)に関しては,Funk & Werhun(2011)の実験を基に,男子大学生を対象として,男性役割を求められたときの行動への影響を検討した。実験の結果,男性役割態度を統制しても,男性役割を求められることによる行動(ハンドグリップを握る時間,認知課題の成績)の差はみられなかった。 (d)については,影響要因として検討する予定であったメディアに関して,メディアに現れる男性像を検討した。その結果,1960・70年代は「他者への配慮」が多く,1980・90年代は,「社会的地位の高さ」や「作動性の高さ」が多く,2000・10年代は「家庭への参加」や「強さからの解放」が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,大きく2つの研究が予定されていたが,次年度の研究も見据えて,データ数としては5つの研究を行った。他者から男性役割を求められる葛藤(b)について,上司や配偶者から男性役割を求められることが,男性の職業生活や夫婦生活に大きく影響し,精神的不健康を低下させることが明らかになった。男性本人が男性役割を意識する葛藤(a)については,量的な調査が実施できなかったが,面接では,多くの男性に生じている問題であることが明らかになった。(c)については,先行研究から予想された結果とならず,海外と日本における男性役割の違いなどが示唆された。(d)については,次年度に実施予定である影響要因の予備的研究として,テレビドラマにおける男性像というユニークな視点で分析し,一定の知見が得られた。 以上より,おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度予定していた,男性役割と個人内の葛藤と精神的健康の関連(a)および男性役割と他者からの期待による葛藤と精神的健康の関連(b)の検討のうち,(b)は面接調査および量的調査を終えたが,(a)については,量的な調査が実施されていない。よって,次年度は,面接調査を基にして,男性本人が男性役割を意識することに関する調査を行う。具体的には,男性役割を自ら意識した経験を尋ね,その時の認知や感情の程度を測定する。これらの認知や感情が,男性役割態度や経験の種類によって異なるかを検討し,併せて,精神的不健康への影響を検討する。 次年度予定していた,男性役割による葛藤と対処行動との関連の実験的検討(c)については,本年度に期待する結果が得られなかった。この結果を踏まえて,次年度も実験的検討を行うか,先行研究も含めて再度検討する。実施する場合には,例えば,「女性と同じくらいですね」というフィードバックではなく,「男らしくないですね」または「男性ならもっと頑張れそうですね」というフィードバックを行うことで,男性役割を意識させるなどの方策が考えられる。 男性役割と影響要因の関連の検討(d)については,本年度に,メディアにおける男性役割描写の変遷を明らかにした。この知見を基に,次年度は,男性が,社会の男性像をどのように受容しているのか,受容してきたのかを検討する。その上で,年代による男性役割の捉え方の差異の背景を探る予定である。 これらすべての研究が終えた時点で,31年度に予定している,男性役割と葛藤に関する縦断調査について,計画を立て始め,必要であれば,予備的研究などを実施する。
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