研究課題
本研究は、過去の全球平均海水温の指標であると考えられている希ガス(Ar, Kr, Xe)の存在比と同位体比および二酸化炭素濃度を、南極ドームふじ氷床コアを用いて分析することで、気候が大きく変遷した期間における全球平均海水温とCO2濃度の変動を同時に復元し、両者の変化の相関関係や時間関係を明らかにすることを目的としている。平成30年度は、CO2濃度分析のための新規切削抽出装置の開発、希ガス分析の手法開発、南極沿岸部(H128)およびグリーンランド氷床北東部(EGRIP)で採取されたフィルン空気(氷床上部の通気層にある空気)の分析を行った。CO2濃度分析に関しては、これまで開発を進めてきた氷切削機構(高速回転刃により微細に粉砕する機構)と異なる原理(直径3mm程度のステンレス製円柱を剣山のように100本程度立て、その先端を氷試料に衝突させて粉砕し気体を抽出する)で氷を粉砕する装置を新規に開発した。空気抽出ラインのバルブや継手、冷却機、真空排気装置、圧力計などの調達も行い、装置の製作を開始した。希ガス分析に関しては、平成29年度に製作した希ガスの抽出装置を用い、同じく平成29年度に確立した空気試料からの希ガス抽出・測定手法にて、フィルンにおける希ガスの分別プロセスを明らかにするためにH128地点とEGRIPで採取されたフィルン空気の分析をした(H128:全27試料、58データ、EGRIP:全28試料、67データ)。フィルン空気の希ガス分析結果を唯一出版している他の研究機関の精度に匹敵する測定精度を達成した。氷コアからの希ガス抽出に関しては、試料空気に使用する水トラップを大容量化しつつ2段式にし、細管を入れるなどの改良を行った。
2: おおむね順調に進展している
CO2濃度分析に関しては、当初の計画を拡張し現有装置とは異なる原理で氷を切削する装置を新規に開発した。平成30年度の間に、装置の設計開発から必要な物品の調達までを完了し、氷床コアのCO2濃度分析に向けて大きく研究を進展させた。氷床コアの希ガス分析は非常に歴史が浅く分析している研究所が少ないことから、各研究所における分析手法の確立が最初の課題となる。空気試料からの希ガス抽出・分析に関しては現在までに手法を確立させた。フィルンにおける希ガスの分別プロセスを明らかにするために、当初の計画にはなかった南極とグリーンランドのフィルン空気試料を分析した。H128地点の希ガスと窒素の同位体比の比較から、同地点のフィルンにおける動的同位体分別効果が予想外に大きいことが判明し、対流強度の季節変化や、冬季におけるフィルン空気の下方への移流が生じていた可能性があることが明らかになるなど、重要な科学的知見が得られた。氷床コアからの希ガス抽出に関しては、使用する水トラップを改良し、既存のトラップで問題となっていた氷の詰まりによる転送効率の低下を解消するなど、氷床コアの希ガス分析に向けて研究を進展させた。
CO2濃度分析に関しては、新規開発中の氷切削装置の製作を進める。装置の主要部分である氷切削機構の組み立てと、空気抽出ラインの製作を行う。人工氷や浅層コアを用いた総合試験を経てドームふじ深層コアを分析する。希ガス分析に関しては、過去に掘削された氷床コア試料を用いた試験を経て空気抽出・分析手法を確立したのちにドームふじコアの希ガスデータを取得する。それらのデータから、全球平均海水温とCO2濃度の復元と解析を行う。
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