今年度特別研究員は、含窒素複素芳香族化合物であるピロールに対する不斉脱芳香族ホウ素化反応について、適切な触媒系および反応条件を精査することによって、反応が良好な収率かつ高い位置・立体選択性で進行することを見出した。また得られる光学活性有機ホウ素化合物に対し、種々のアルデヒドを作用させることによって、複数の不斉中心を有する含窒素環状骨格を構築することにも成功した。さらにその他の立体特異的変換反応により、生理活性を示す光学活性3-ヒドロキシプロリンや光学活性ポリヒドロキシピロリジンの誘導体を短段階で合成することにも成功している。これらの成果について、特別研究員が筆頭著者として学術誌に今年度投稿し、受理された。 また含窒素複素芳香族化合物であるインドールおよびピロールに対する脱芳香族ケイ素化反応についても並行して研究を行った。種々の検討の結果、銅触媒存在下インドールおよびピロールの脱芳香族ケイ素化が良好な収率かつ高ジアステレオ選択的に進行することを見出した。なお本反応は配位子なしの条件で良好に進行し、ホウ素化反応とは異なる立体化学の生成物が選択的に得られることがわかっている。さらに本反応により得られる有機ケイ素化合物の変換反応についても検討を行い、本反応の有用性を示した。これらの成果については特別研究員が筆頭著者として学術論文を執筆しており、翌年度上旬に投稿予定である。 炭素-ホウ素結合および炭素-ケイ素結合形成をともなう脱芳香族化反応は、安価な芳香族化合物から、医薬品等の有用な合成中間体となりうる環状有機ホウ素/ケイ素化合物を一段階で与える強力な手法である。しかしながらこれらの報告は数例のみにとどまっており、脱芳香族化反応の開発研究の中でも発展途上の研究である。そんな中、目的のホウ素化/ケイ素化反応が良好な反応性で進行することを見出したことの意義は非常に大きいと言える。
|