研究課題/領域番号 |
17J00854
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森山 美優 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | SFTSウイルス |
研究実績の概要 |
重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS)はSFTSウイルス(SFTSV)によって引き起こされる新興感染症である。SFTSVやその近縁のハートランドウイルス(HRTV)の非構造タンパク質であるNSsタンパク質はI型インターフェロンの産生を抑制するが(Wu et al. J Virol. 2013, Ning et al. J Biol Chem. 2017)、その機能ドメインは不明である。そこで本研究では、I型インターフェロンの抑制効果に必要なNSsタンパク質のアミノ酸領域の解析を行った。 SFTSV NSsタンパク質のN末端、C末端のアミノ酸を部分的に欠損させてIFN-β抑制効果に与える影響を解析した結果、20~30番目のアミノ酸が重要であることが明らかとなった。さらにアミノ酸配列をもとに二次構造予測を行ったところ、どちらのウイルスでもNSsタンパク質の20~23番目のアミノ酸がβシート構造をとることが予測された。そこでSFTSV/HRTV NSsタンパク質の20/22番目または21/23番目のアミノ酸をそれぞれアラニンに置換してIFN-β抑制効果に与える影響を解析したところ、21/23A変異がIFN-β抑制効果を完全に消失させた。21/23A NSsはTBK-1と共免疫沈降しなかったことから、SFTSV/HRTV NSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸がTBK-1との相互作用やIFN-β抑制効果に重要であることが示唆された。以上の結果から、SFTSV/HRTV NSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸がI型インターフェロンの抑制効果に重要であることが明らかとなった。現在、これらの成果をまとめた論文は申請者が筆頭著者として投稿中である。また、国際・国内学会にて演者として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、I型インターフェロンの抑制効果に必要なSFTSウイルス(SFTSV)やその近縁のハートランドウイルス(HRTV)のNSsタンパク質の機能ドメインは不明であったが、研究計画1年目にして、SFTSV/HRTV NSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸をそれぞれアラニンに置換した21/23A NSsはIRF-3のリン酸化とIFN-β mRNAの誘導を抑制できないことや、21/23A NSsでは野生型と比較してTBK-1との強い相互作用が著しく減弱していることを明らかにした。以上の結果から、SFTSV/HRTV NSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸がI型インターフェロンの抑制効果に重要であることが明らかとなり、これらの成果をまとめた論文を請者が筆頭著者として投稿中である。 NSsタンパク質の封入体形成をI型インターフェロン抑制能の指標として化合物スクリーニングを行うため、ガラスボトムdishにHeLa細胞を播種し、EGFP融合NSs発現プラスミドをトランスフェクションして7時間後から24時間後までのタイムラプス画像を取得した。また、化合物ライブラリーを提供している東京大学創薬機構のスクリーニング講習会に参加した。 産業技術総合研究所の研究グループとの共同研究で、NSsタンパク質の共沈物の質量分析を行った。同定された宿主因子リストの上位から10遺伝子をピックアップし、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてHEK293FT細胞で遺伝子のノックアウトを試みたところ、すでに6遺伝子の欠損細胞の作製に成功している。これらの欠損細胞でNSsタンパク質によるIFN-βレポーター活性阻害能の検討を行ったところ、どの欠損細胞でも野生型の細胞と同様に、NSsタンパク質によるI型インターフェロンの抑制効果が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
I型インターフェロンの抑制効果に必要なSFTSウイルスNSsタンパク質のアミノ酸領域の解析を行った結果、SFTSウイルスと、その近縁のハートランドウイルスNSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸がI型インターフェロンの抑制効果に重要であることを明らかにすることができた。この成果を国際・国内学会にて発表し、これらの成果をまとめた論文を投稿中である。今後、SFTSV/HRTV NSsタンパク質の21/23番目のアミノ酸の役割はTBK-1との相互作用のみに特異的なのかを検証する予定である。 SFTSVのNSsタンパク質は細胞質中に特有の封入体を作り、TBK-1を隔離することによってIRF3のリン酸化と核移行、それに続くI型インターフェロンの産生を抑制する(Wu et al. J Virol. 2013)。NSsタンパク質の封入体形成をI型インターフェロン抑制能の指標として化合物スクリーニングを行うため、CO2インキュベータを搭載した共焦点顕微鏡を用いて、EGFP融合NSsの封入体が形成される様子のライブイメージングに成功した。現在、実際に使用する化合物ライブラリーの規模を検討中である。 SFTSVの感染のみならず、NSsタンパク質の単独発現でも封入体が形成されることから、宿主因子の関与が示唆される。SFTSVのNSsタンパク質と特異的に強く相互作用する宿主因子を網羅的に解析するため、産業技術総合研究所の研究グループとの共同研究で、NSsタンパク質の共沈物の質量分析を行った。同定された宿主因子リストの上位から10遺伝子のノックアウトを試みたところ、6遺伝子の欠損細胞の作製に成功したが、4遺伝子の欠損細胞は今のところ樹立できていない。今後、残りの4遺伝子に対してはsiRNAを用いて遺伝子発現を抑制し、IFN-βレポーター活性阻害能について検討を行う予定である。
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