今後の研究の推進方策 |
今回見つかったHodge分解はPSL(2,R)という群での具体的な計算に基づいて構成されている。そしてなぜそのような分解が存在するのかという説明はまだされていない。PSL(2,R)の次に簡単な群であるSL(2,C)について考えたとき、第1段階のHodge分解はPSL(2,R)のときと同様の具体的な計算によって構成できる。しかし計算の量がかなり増えることからコンピュータなしの計算ではこれ以上先に進むことは難しい。したがってまずは第1段階のHodge分解を一般の半単純Lie群と放物型部分群に対して理論的に説明することが望ましい。また第2段階のHodge分解についてはSL(2,C)の場合に関してもまだどう定式化すればよいのかわかっていないのでその点について考える必要がある。 PSL(2,R)の場合にはすでにHodge分解が構成されているのでNash-Moserの陰関数定理を用いた葉層構造の剛性への応用について考えられる。しかしPSL(2,R)の場合の特殊事情によってまだ1つ示さなければならないことが残っている。それは小平-Spencer写像が各点で同型となっているような葉層構造の族の構成である。考えるべき葉層構造の族はよく知られたものであるので問題は小平-Spencer写像が同型であることを示すことにある。 またSL(2,C)の場合に両方のHodge分解をうまく構成できればPSL(2,R)の場合と異なり直ちに葉層構造の剛性についての応用が可能である。MANをSL(2,C)の放物型部分群、ΓをSL(2,C)の一様格子とする。MANはSL(2,C)/Γに左からの掛け算で作用する。その作用の軌道葉層が剛性をもつかどうかは未解決であるが、Hodge分解が期待通りに構成できればこの葉層構造が剛性をもつことをNash-Moserの陰関数定理を用いることによって証明できる。
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