研究課題/領域番号 |
17J00911
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鵜飼 孝大 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 糸状菌 / 天然物 / ポリケタイド / 生合成 |
研究実績の概要 |
本年度において、生合成遺伝子および生合成経路が不明な糸状菌由来天然物シクロヘルミントールX、およびその部分構造のシクロペンテン骨格をもつ天然物シクロヘルミントールI-IVの生合成研究を行った。得られた成果は国内の学会で発表した。 糸状菌Helminthosporium velutinum yone96株が生産するシクロヘルミントールXはヒト白血病細胞株に対する増殖阻害活性を示す。その化学構造は、3つの炭素がすべて置換された特異なシクロプロパン構造と、それに連結したシクロペンテン骨格を有している。この中でもシクロペンテン骨格は、その類縁体の生合成研究における同位体標識前駆体の取り込み実験から、ベンゼン環のファボルスキー様転位によって5員環に環縮小する生合成経路が提唱されていたが、実験的な証明はなされていなかった。本研究の目的は、有用な生物活性を示す化合物の生合成経路の推定と、特に学術的にも興味深い反応を触媒する酵素の機能解明である。 まずシクロヘルミントール類生産菌より推定生合成遺伝子クラスターを探索し、得られた生合成遺伝子を、麹菌を利用した異種発現によって機能解析した。その結果、シクロペンテン骨格天然物の前駆体であると知られていた6-ヒドロキシメレインと、その塩素化類縁体を単離、構造決定することができた。続いて、遺伝子クラスター内に存在したフラビン依存酸化酵素遺伝子、メチル基転移酵素遺伝子について、6-ヒドロキシメレインの塩素化類縁体を生産する麹菌に追加導入したところ、新規化合物であるメチルエーテル構造と塩素置換基を有するヒドロキノンの単離・構造決定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発見した推定生合成遺伝子クラスターを機能解析した結果、シクロペンテン系天然物の前駆体であると予想されていた既知化合物6-ヒドロキシメレインと、その塩素化類縁体の生産に成功した。このことから、得られた遺伝子は予想に違わず目的化合物の生合成に関与していることを示している。また麹菌異種発現株から新規化合物であるメチルエーテル構造と塩素置換基を有するヒドロキノンが単離された。通常、ヒドロキノンは酸化を受けやすく不安定な構造であるが、本化合物はNMR解析に耐える安定性を示した。これはメチル基と塩素が化合物の安定性に寄与していると考えられた。実際にメチル基を導入する酵素を導入しなかった場合、対応する化合物は検出されなかった。過去の知見において、塩素が導入されていないシクロペンテン系天然物であるテレインを対象とした研究では中間体が検出されなかったことも合わせると、シクロペンテン骨格を有する天然物の生合成ではヒドロキノン中間体を単離することは非常に困難であり、後期修飾酵素遺伝子の導入で安定中間体まで変換することが必須であるとの知見を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
標的化合物であるシクロヘルミントール類の生合成中間体に相当する化合物群を単離・構造決定したため、引き続き後期修飾酵素遺伝子の機能解析を予定している。シクロヘルミントール類の構造類縁体であるパルメノン類生産菌のドラフトゲノムシーケンス解析を行い、得られたパルメノン類の予想生合成遺伝子とシクロヘルミントール類の生合成遺伝子間で相同性の高いものを探索する予定である。該当した遺伝子は当化合物群の生合成に関与することが強く示唆されるため、ゲノム編集技術CRISPR-CaS9を用いた遺伝子破壊で最終産物の生産が停止するかを確認したい。それと並行して麹菌異種発現系を利用した異種発現により最終産物であるシクロペンテン骨格の異種生産も目指す。本化合物の生合成経路で最も興味深く、最終ステップと予想される六員環から五員環へのファボルスキー様転位反応を触媒する酵素が生体内で確認できれば、大腸菌を用いて組み換え酵素を調製して、その詳細な反応機構を調査する予定である。
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