研究課題/領域番号 |
17J00917
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
盛満 裕真 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 吸着形態 / 吸着層形成過程 / 固体界面 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
高分子の表面・界面はバルク(内部)とは異なったエネルギー状態にある。このため、高分子の表面・界面における構造・物性はバルクとは著しく異なっている。したがって、表面や界面を積極的に利用した機能性高分子材料を設計する際には、バルクのみならず表面・界面における分子鎖凝集構造・熱運動特性を理解することが重要となる。特に高分子の固体界面においては、吸着層と呼ばれるバルクとは異なる運動性を示す高分子層が存在することが指摘されており、近年、この吸着層の分子鎖凝集構造や運動性は、高分子/無機フィラー複合材料の力学特性に大きな寄与をすることが明らかになっている。しかしながら、その形成メカニズムや分子鎖凝集構造の詳細は、未だ明らかにされていない。 そこで平成30年度は、形態観察が容易なDNAをモデルに用いることで、固体上における高分子吸着層の分子鎖凝集状態ならびに形成メカニズムを視覚的に理解することを目的とした。試料としてラムダファージDNAを用い、基板としてマイカを用いた。DNA溶液をマイカ基板上に所定時間マウントし洗浄した後、原子間力顕微鏡観察に供した。 DNA一分子の形態を評価するため、DNAが比較的吸着しにくい条件下で試料を調製した。DNA吸着鎖は、二次元に広がったランダムコイルを示した。DNAの回転半径および持続長は、それぞれ796 nmおよび362 nmであり、溶液中におけるそれらと比較して大きかった。これは、DNAとマイカの間の相互作用が非常に強いため、両者の接触点が多くなるようなコンフォメーションをとると考えることで説明できる。同濃度下で吸着時間依存性を評価した。その結果、吸着中期においては、一部に吸着した部分吸着鎖との絡み合いにより吸着が促進される協同的吸着が観測され、最界面における吸着層は、空間的に不均一な分子鎖凝集構造を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、当初の目的に従って、「デオキシリボ核酸(DNA)をモデル高分子とした、固体界面における高分子吸着鎖の形成過程とその凝集構造の直接観察」に関する研究を遂行した。固体界面への高分子鎖吸着形態を原子間力顕微鏡に基づき直接観察することで、高分子吸着層の形成過程を世界で初めて明らかにした。加えて、スピンコート過程における遠心力が、高分子鎖の吸着形態に及ぼす影響を明らかにした。これらの成果は、高分子/無機複合材料の力学特性の新たな制御方法構築に重要な知見である。研究成果は、国際学会を含め複数の学会にて発表済みであり、現在論文執筆中である。以上の理由により、期待以上の研究の進展があったと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、高分子吸着過程の全容を明確な描像と共に解明した。得られた知見は、DNA薄膜のバイオマテリアルへの応用展開の際の基盤技術となるだけでなく、高分子/無機複合材料の力学特性に及ぼす界面効果の理解に繋がると考えられる。次年度は、これらの知見に基づき、高分子吸着鎖の吸着形態の制御を目指し、高分子/無機複合材料の力学特性との相関を検討する。
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