研究課題
うつ病罹患者に対するサポート行動を促進する教育プログラムを開発するという目的に向けて,当該年度は,教育コンテンツ開発の土台となる質問紙調査を複数実施した。具体的には,(1)うつ病の診断がつくレベルの重い抑うつ症状が見られる友人(研究1)と,(2)早期の抑うつ症状を示した友人(研究2)のそれぞれをサポートする際に,どのような懸念事項が強く働くのかを明らかにした。また,当該年度の8月からは,メルボルン大学に滞在して共同研究に従事した。メルボルン大学の研究室は,うつ病教育のプログラムとして世界の先駆けとなったMental Health First Aidプログラムを開発して効果研究を積み重ねた実績をもつ。こうした研究室のメンバーと,第3年度に実施予定の教育プログラムに関して意見交換を行った。さらには,関連する先行研究の知見を統合するためのメタ分析に着手した。さらに当該年度では,前年度までに収集したデータの論文投稿と学会発表に取り組んだ。その結果,国際誌・国内誌2誌ずつ(いずれも査読付き)で論文を出版することができ,査読付き国際誌1誌で論文が採択されて印刷中となった。また,The 2018 Australian Psychological Society Congress(筆頭)と日本心理学会第82回大会(連名)のそれぞれで,ポスター発表を実施して他の研究者との意見交換を行うことができた。上記の他に,これまでに科研費課題を通して得られた成果をアウトプットする機会として,国内誌『臨床心理学』において論説を発表することができた。また,自殺予防のための心理相談活動を進めるNPO法人OVAによるインタビュー記事がオンラインで公開された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度においては,大学生を対象にうつ病の教育プログラムを実施することを当初は計画していた。しかし,実際にプログラム実施の準備を進める中で,オリジナリティの高い教育プログラムを実施するためには,(1)これまでに類似のプログラムを実施した経験が豊富な研究室から多くのノウハウを学び,(2)近接テーマに関する知見を統合的に整理した上で,(3)質問紙調査等を通じて基礎的知見を蓄積し,独自の教育コンテンツ作成につなげていくことが望ましいということに思い至った。このことから,教育プログラムの実施開始時期を第3年度に先送りすることになった。その代わりとして,(1)Mental Health First Aidプログラムを開発・実施して世界的な評価を得ているメルボルン大学の研究室に滞在し,(2)近接テーマの研究知見を統合するメタ分析の計画を共同で進めるとともに,(3)日本の共同研究者と連携して,当初は第3年度に予定していた調査の一部を前倒しして,基礎的知見の蓄積に注力した。上記のように,当該年度には研究の実施順序に関する見直しがあったものの,メルボルン大学との共同研究やメタ分析といった新たな角度から研究課題を進展させることができ,基礎的知見の蓄積も進んだ。また,国内外の学術雑誌4誌で論文が出版され,国際誌1誌で論文が採択されて印刷中となったことをはじめとして,これまでの研究成果も順調にアウトプットされた。これらのことから,第3年度にうつ病の教育プログラムを実施するための土台作りが大幅に進んだことから,おおむね順調に研究が進展したと評価できる。
第3年度の前期は,昨年度に引き続いてメルボルン大学の研究室に滞在し,うつ病教育プログラムの実施に向けた議論を重ねるとともに,メタ分析の計画を実行に移し,近接テーマに関する知見を統合・整理することを計画している。同研究室には,精神疾患罹患者に対する偏見の低減やサポートの拡充を目的としたプログラムを開発・実施した実績が豊富にあり,申請者の計画をより洗練していくためのノウハウや研究資源が多く得られると期待される。また,メタ分析を実施することによって,うつ病罹患者に対するサポート行動を促進する効果が特に高い教育手法はどういった種類のものか,数値に基づいた実証的な議論が可能になると期待される。後期は日本に帰国し,受入研究機関との連携のもと,大学生を対象にうつ病教育プログラムの試行版を実施し,偏見やサポート行動の意図がどのように変容するか,短期的な効果を検討する。このことによって,うつ病罹患者に対するサポート行動を促進する教育プログラムを開発するという研究課題全体の目的を達成する予定である。なお,この教育プログラムは,うつ病や新型うつについての正しい知識を伝達することを核としつつ,メタ分析によって教育効果が特に高いと評価されたアプローチを採用することを予定している。また,メルボルン大学の研究室との連携も引き続き維持し,ベースラインでのうつ病の知識が日豪でどの程度異なるかを明らかにする国際比較調査といった,教育実践研究の土台となるような研究知見をより一層充実させていくことも検討している。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (4件)
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: 73 ページ: 441-447
10.1111/pcn.12838
Basic and Applied Social Psychology
巻: 40 ページ: 87-103
10.1080/01973533.2018.1441714
精神医学
巻: 60 ページ: 899-908
臨床心理学
巻: 増刊10 ページ: 65-70
Psychology
巻: 9 ページ: 2482-2502
10.4236/psych.2018.911143
心理学研究
巻: 89 ページ: 520-526
10.4992/jjpsy.89.17334
https://researchmap.jp/junkashihara/
https://orcid.org/0000-0002-4968-0436
https://junkashihara.wixsite.com/psychology
https://publons.com/researcher/1480551/jun-kashihara/