研究課題/領域番号 |
17J00927
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
兼吉 航平 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 抗体医薬品 / 動物細胞 / 細胞内膜輸送 |
研究実績の概要 |
抗体に代表される組換えタンパク質は医薬品としての需要をますます伸ばしており、その生産に用いられる動物細胞の生産性を向上させることが求められている。動物細胞内における分泌過程、膜輸送は抗体生産の律速となっていることが指摘されているが、無血清培地で培養され組換え抗体を生産する細胞における膜輸送に関して直接的に解析した例は少ない。本研究では組換え抗体生産細胞を対象として、抗体を細胞内から細胞外へ輸送する順行性輸送と、細胞外から抗体を取り込む逆行性輸送について定量的に解析し、生産性を向上させるための因子を明らかにすることを目的とする。 2017年度は主に抗体の順行性輸送について解析を行った。まず、既存の抗体生産株の化学固定試料を用いて蛍光免疫染色を施し、抗体分泌における律速地点の解析を行った。異なる抗体を生産する3種類の株を対象に、翻訳阻害剤シクロヘキシミドをもちいて新たな抗体の合成を停止させて蛍光顕微鏡観察を行ったところ、抗体は分泌の最初の段階である小胞体内に数時間滞留していることが明らかとなった。また一部の抗体はゴルジ体にも滞留していたことから、分泌の律速は小胞体とゴルジ体にあると明らかになった。 次に細胞内における抗体の膜輸送機構を直接生細胞にて観察するため、緑色蛍光タンパク質で標識した抗体を生産する細胞を構築した。また今後抗体の生産性と細胞内膜輸送速度との相関性を解析していくために、シングルセル単離装置を用いて分泌能の異なるクローンを複数取得した。この細胞を用いて生細胞観察を行ったところ、多くの抗体が小胞体と共局在しており、前述の固定試料を用いた解析と同等の結果を得た。また細胞内にて抗体が移動する様子を動画にて撮影できることを確認し、抗体分泌速度の定量的解析を進める準備がおおよそ整っている状態にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生細胞観察を行うための蛍光顕微鏡設備の整備が遅れたことにより、2017年度中に終了させる予定であった、抗体の逆行性輸送の観察実験は進んでいない状態である。一方で、2年目の実験にて必要となる分泌能の異なる細胞株の取得は先に終了し、また細胞内における抗体の分泌速度を定量的に解析するためのリアルタイム観察を行う準備は整いつつあるため、順番は前後しているが全体の計画として大きな遅れはないものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述した、生細胞観察に基づく抗体の逆行性輸送についての解析をまず進める方針である。生細胞観察を行うための設備は現在は整っている状態であり、また観察に必要な材料も取得できているため、問題なく研究を推進できると予想している。次に当初の計画通り、生細胞のリアルタイム観察に基づき、抗体の生産量と分泌速度の定量的な解析からその相関性を明らかにする。本年度の解析より抗体分泌の律速は小胞体あるいはゴルジ体にあることが明らかとなったため、抗体の分泌能が異なる複数のクローンについて、小胞体からゴルジ体、ゴルジ体から分泌小胞あるいは分泌顆粒への輸送を担っているタンパク質の発現量比較を行い、生産性への影響を解析する。
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