生態学的アセスメントが直面する時間や予算の制約のもとで,どれだけ効率的なアセスメントができるか,という問いに答えるための理論的研究を行なった。この目的のため,ある種の個体群分布,アセスメントの結果として得られる在・不在地図の解像度やサンプリングのルート,個体を検知する際の成功率などを扱う空間明示的な数理モデルを構築した。これらのパラメータが与えられた際に,アセスメントにより得られる在・不在地図の精度を,地図が含む第二種過誤の期待値により評価した。またアセスメントにかかる期待時間を求め,これらの関係を用いてアセスメントの制約と精度のトレードオフを明らかにした。この研究は現在論文としてまとめている段階にあり採用第3年目の期間中に研究論文として学術雑誌に投稿する予定である。 また,採用第1年目に構築した生態系モデルの補完的な位置付けとしての役割を担うspecies range size frequency distributions(RSFD)がどのような生態学的要因により決まるかを議論するための理論モデルを構築した。数理モデル上で,それぞれの種にあるサイズをもつ分布領域を定義し,それらがある一定の割合で拡大・縮小するか,また種分化により分布領域が二つに分裂し,種数が増えるというような数理モデル,gain-loss-allopatric speciation processを構築した。このモデルは,分布領域の拡大・縮小率が同程度の場合,なおかつ種分化率のオーダーが拡大・縮小率に比べて相対的に大きく異ならない場合(0.0001倍ほど)の時に,観測データが示すような対数スケール状で左に歪んだ正規分布のようなspecies-range size分布が得られることがわかった。この成果は本年度の日本生態学会において発表した。また,研究成果は論文としてまとめられており,現在投稿中の状況にある。
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