前年度より研究を進めていた,時間や予算の制約のもとで生態学的アセスメントを効率的に行うための理論的研究を引き続き行った。これは市民科学者やドローンなどを想定した観測者が,生物の在・不在地図を作成する際に用いられ,観測者の観測成功確率,観測スピードなどを定量化することにより,在・不在地図に含まれる第二種過誤の度合い,および全観測時間の期待値を与えるものである。第二種過誤の度合いと全観測時間はトレードオフの関係にあり,これを定量化することにより,制約条件化での観測効率の最適化を図ることが可能になる。本年度はBarro Colorado Islandの植生分布データにこの生態学的アセスメント手法を適用し,上記の期待値を計算することでその実際的な有効性を提示した。この研究は学術雑誌に投稿し,現在改訂中である。
また前年度に投稿していた,species range size frequency distributions(RSFDs)がどのような生態・進化的要因により決まるかを議論するための数理モデルの改訂を行った。これは初年度に行なった生態系モデルが示す空間的パターンの形成プロセスを議論するものであり,この数理モデルの補完的な役割を担うものである。特に種の生息領域ごとに決まる異所的種分化確率の仮定を拡張し,より広い過程において,一般的に観測される対数軸上で左側に歪んだ分布が現れることを示した。また,構築した理論の検証として,アメリカ大陸における哺乳類と鳥類のデータを用いてモデルのフィッティングを行なった。現在この論文は2度目の改訂作業中であり,改訂作業が完了し次第すみやかに再投稿する予定である。
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