研究課題
統合失調症は幻覚妄想が主症状となる精神疾患で、発症率は約1パーセントと高い。現在、根治的な治療方法は存在しない。統合失調症に対して対症療法的に用いられる抗精神病薬により初発の精神病症状が軽快しても服薬を中断すれば1年以内に約80%のケースで再発するとされる。一方で、統合失調症様エピソードを生じるが、免疫療法等が有効である抗N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体抗体による脳炎が2007年に提唱された。統合失調症と診断されるものの中で本抗体が陽性である患者は一定数存在すると考えられ、その一群に対する免疫療法の効果が期待されている。近年、抗NMDA受容体抗体以外にも多様な抗体が統合失調症様症状を含む精神症状に関連すると報告されている。しかし、全抗体を検索することは実臨床上困難である。加えて、統合失調症に関連する未知の抗体の存在も考えられる。そこで、我々は、統合失調症の背景病態として自己免疫学的要因が疑われる一群を検出する方法を開発することを目的に研究を行っている。この目標を達成するために、統合失調症患者群および健常対照群に対して、脳画像検査・採血検査・神経心理学的検査等を含む複数の検査を施行している。脳画像検査としては、T1強調画像、T2強調画像、拡散テンソル画像、安静時fMRI検査を含む検査を行い、また、採血検査には、抗NMDA受容体抗体などの抗体を含む検査を行っている。複数の検査結果を組み合わせて、統計解析を行うことで、統合失調症において自己免疫学的要因の介在が疑われる一群を検出する手法を開発する。
2: おおむね順調に進展している
統合失調症における自己免疫介在群の検出に向けて、おおむね順調に研究は進展している。グルタミン酸受容体の一つである N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に着目し、複数の手法を用いて抗NMDA受容体抗体の測定を行った。複数の手法を用いる点は独創的であり、既にこの結果については論文化している。論文においては偽陽性の可能性を含めて議論を行い、統合失調症における抗NMDA受容体抗体陽性群に関して新たな知見を加えるものとなった。既に論文化されたこの研究に加えて、患者群および健常対照群の頭部MRI画像検査・採血検査・神経心理学的検査のデータ取得も進んでいる。統合失調症において、自己免疫の介在が疑われる一群の評価・検出を行う基盤が構築されつつあるといえる。
引き続き、統合失調症患者群および健常対照群のリクルートを行い、頭部MRI画像検査・採血検査・神経心理学的検査等のデータ収集を行う。加えて、これらの結果に統計学的解析を加えることで、自己免疫学的要因が背景に存在する統合失調症群の特徴を明らかにし、その検出方法を開発・検討する予定である。
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