研究課題
本年度は、同じく安東研究室に所属する小森健太郎氏と共同で、軽量鏡を含む2つの光共振器を組むことで量子輻射圧雑音の観測のためのテーブルトップ実験を進めてきた。具体的には、以下に挙げるようなことをおこなってきた。ねじれ振り子型軽量鏡を含む共振器の共振の達成: ねじれ振り子型軽量鏡を含む共振器において、レーザー光を共振させること自体がチャレンジングである。なぜなら、共振状態になり光が蓄積するとすぐに光輻射圧によるトルクによって軽量鏡が回転してしまい、共振状態を保てないからである。これまでに、軽量鏡が回転してしまうより前に鏡の両端で同時に共振状態を実現することで、2つの共振器を同時に共振状態にすることを達成した。この達成により、量子輻射圧雑音の観測が可能な水準までレーザー光の強度を高める道筋がたった。また一方で本研究の大きな目標のうちの1つは、テーブルトップ実験で実証した量子輻射圧雑音の低減技術を実際の大型重力波検出器に導入することである。そのため、本年度からKAGRAプロジェクトでの共同研究も進めてきた。具体的には以下のようなことを行った。KAGRAの想定感度の計算: KAGRAの設計感度では、広い周波数領域で量子輻射圧雑音が感度をリミットするようにデザインされている。しかし、初めから設計感度を実現できるわけではなく、特に初期は入射レーザーパワーが小さく量子輻射圧雑音が大きくないということが想定される。そこで、一部で検出器デザインとは異なる反射率の鏡を用いることでどのような感度が想定されるかを計算し、量子輻射圧雑音がより際立つこと、およびKAGRAにおける重力波の検出にとっても有利であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
微小鏡を用いた実験においては、量子輻射圧雑音を測定可能なレベルまで光源の雑音、つまり強度雑音と周波数雑音を低減することに成功した。また、1つの大きなマイルストーンのである、両腕の同時共振・同時ロックに成功した。これらの達成は、目標達成へむけた確実な進捗である。また大型低温重力波検出器KAGRAプロジェクトにおいては、量子輻射圧雑音の低減方法をKAGRAへ導入することへむけて、KAGRAの主干渉計部分の開発を進めており、低温マイケルソン干渉計の動作に対して主要な寄与を果たした。これは当初想定していなかった進捗である。
今後は、微小鏡を用いたテーブルトップ実験を進める一方で、KAGRAプロジェクトにおいて量子輻射圧雑音の低減方法を導入することへむけた研究を中心として進めていく。初期観測運転時の検出器の感度の最適化などを通して、いち早く、大型重力波検出器で量子輻射圧雑音の観測・低減を行うことを目指す。またその際には、いかにして大型干渉計を動作状態へ引き込むかといった問題についても併せて取り組むことで、KAGRAの感度を、量子輻射圧雑音低減のインパクトがあるレベルにまで向上させる。
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Physical Review D
巻: - ページ: -
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