研究課題/領域番号 |
17J00982
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高松 世大 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / リボソーム / リボソームタンパク質 / 翻訳停止 / 新生鎖 |
研究実績の概要 |
本年度は,翻訳途上の新生ポリペプチド鎖がリボソームの翻訳停止を誘導する機構の解明を目指して研究を進めた.リボソームタンパク質uL4はループ構造を有し,リボソームタンパク質uL22とrRNAとともに新生ポリペプチド鎖の通り道(出口トンネル)を形成する.本研究では,uL4のループ領域に変異導入された変異型uL4-FLAG遺伝子を発現するシロイヌナズナ株を材料とした. はじめに,これらの形質転換株を用いた生理学・生化学的解析を行い,ループ領域に変異をもつuL4を取り込んだ変異型リボソームの植物体内での機能性を確認した.次に,これらの形質転換株からシロイヌナズナ細胞抽出液を作製し,複数の新生ポリペプチド鎖に依存したリボソームの停滞への出口トンネルの関与を評価した.その結果,uL4のループ領域に欠失変異をもつ形質転換株由来の細胞抽出液では,変異型リボソームに依存してリボソームの停滞効率が減少した.一方,uL4のループ領域頂点にアミノ酸置換をもつ変異型リボソームでは,リボソームの停滞効率に影響が見られなかった.これらの結果は,リボソーム停滞効率の変化が出口トンネルと新生ポリペプチド鎖との相互作用の変化に起因することを示唆する.また,特定の小分子が新生ポリペプチド鎖に作用し,出口トンネル内部で新生ポリペプチド鎖のコンホメーション変化を誘導する例が報告されている. uL4のループ領域への欠失変異の導入は新生ポリペプチド鎖のコンホメーション変化だけでなく,リボソームの停滞も抑制した.これらの結果は,翻訳途上の新生ポリペプチド鎖が細胞質中の小分子を感知してコンホメーションを変化させ,リボソーム出口トンネルとの相互作用を介してリボソームの翻訳停止に寄与することを示す重要な知見である.本年度に得られた成果は国際学会を含む複数の学会で報告し,国際学術論文として投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,リボソームの停滞を誘導する複数の遺伝子に対し,リボソームタンパク質uL4が翻訳途上の新生ポリペプチド鎖との相互作用を介してリボソームの停滞に寄与することを生化学的に示した.その過程で,ループ領域の大部分を欠く変異型uL4を発現する形質転換株では,葉の形態異常が見られることが明らかとなった.これは,機能不全,あるいは新生ポリペプチド鎖との相互作用能力を失ったリボソームタンパク質uL4が植物体に大きな影響を及ぼすことを示唆する結果であり,植物の発生・発達段階でのリボソーム出口トンネルの役割の普遍性の提唱につながる.また,来年度に予定したリボソーム出口トンネル変異株を用いたリボソームプロファイリング解析の予備的な実験を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,平成29年度に着目したuL4とともにリボソーム出口トンネルを形成するuL22に着目し,新生ポリペプチド鎖に依存したリボソームの停滞への関与を検証し,学術論文の投稿準備を進める.また,ループ領域を大きく欠いた変異型uL4のリボソームとしての機能性を生化学的に評価し,生理学的解析によって発生・発達段階への機能不全リボソームタンパク質の影響を検証する.平成29年度に行った予備的な実験結果をもとに,リボソーム出口トンネル変異株を材料としたリボソームプロファイリング解析を行い,リボソームタンパク質uL4とuL22との相互作用を介して発現制御される新規遺伝子の同定を目指す.
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