研究実績の概要 |
真核生物の新生ペプチド鎖依存的なリボソーム停滞(NPmRS)では,出口トンネルの内部に位置する合成途上のポリペプチド鎖が重要であり,自身を合成中のリボソームによる翻訳反応の停滞を誘導する。出口トンネルの内ほどにはトンネルが狭まった部分があり,狭窄部位と呼ばれる。原核生物における遺伝学的研究から,狭窄部位は新生ペプチド鎖と相互作用し,リボソーム停滞において「関所」として機能することが示唆されている。しかしながら,原核生物と異なり真核生物では,新生ペプチド鎖と狭窄部位との相互作用がリボソーム停滞の結果でなく原因であることを示す遺伝学的証拠がないことに加え,リボソーム自身を対象とした遺伝学的解析もなされていない。本年度は,前年度に続き,NPmRSについて逆遺伝学に基づく生化学的な解析を行い,リボソーム停滞におけるリボソーム狭窄部位の関与を明らかにした。 その結果,制御性ペプチド鎖がリボソーム内部で狭窄部位に届くほど十分長い場合には,NPmRSの誘導にリボソームタンパク質uL4のβループ構造を含む狭窄部位が重要である一方,その寄与の仕方は一様でなく,それぞれに異なることが明らかになった。また,狭窄部位に届かない短い制御性ペプチド鎖の場合には,狭窄部位に依存せずにNPmRSが誘導されることが明らかとなった。これらの結果は,新生ペプチド鎖がリボソームに対して多様な機構で作用することを示すものである。 上記の研究成果について原著論文(Takamatsu et al., Nucleic Acids Research 2019, 48, 1985-1999)を発表し,Faculty of 1000から推薦をいただいた。
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