研究課題/領域番号 |
17J01001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松澤 智 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | X線自由電子レーザー / パルス強磁場 / X線回折 |
研究実績の概要 |
本研究は、新世代の高強度X線であるX線自由電子レーザー(XFEL)とパルス強磁場を組み合わせることで、これまで光源の強度不足で困難とされてきたパルス強磁場X線回折と発光分光の同時測定を実現させ、これを用いて磁場誘起スピンクロスオーバー転移における構造と電子状態の相関を解明することを目的としている。また、回折・分光実験はアメリカのXFEL施設LCLSで行う予定であるが、これと並行して軟X線の利用や40テスラ級の実験を目指した新たな装置の立ち上げを日本のXFEL施設SACLAで目指している。 1年目である本年度は、2年目に本実験を行うために、装置開発と装置の検証実験を中心に進めた。具体的には、前期にSACLAで使用するX線回折用の真空チャンバーやマグネットの設計・作製を行い、まずは実験可能なレベルにまで装置開発を進めた。後期は実際にSPring-8およびSACLAでそれぞれ放射光とX線自由電子レーザーを使用した実証実験を行った。結果として、最低温度8K、最大磁場30テスラで、実際に単結晶試料の回折ピークを観測することができ、装置として問題なく機能することが確認できた。信号強度の観点からも、ブラッグピークであれば、1発のパルス磁場で十分なデータが得られている。さらに、SACLAでの実証実験では、粉末試料も測定しており、ピンクビームを用いることで、ほぼシングルショットで回折パターンが取れることも確認した。本年度行った装置開発に関しては、日本物理学会で発表した。 また、SACLAでの装置立ち上げと並行して、LCLSでは強磁場X線回折および発光分光の同時測定装置の開発を進めた。装置は現在開発段階ではあるが2018年5月に実験が予定されており、磁場誘起スピンクロスオーバー錯体のX線回折・分光同時測定を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進行状況はおおむね順調である。特にSACLA用の装置立ち上げを本年度中に終了させ、LCLSとSACLAの2カ所でXFELを使った強磁場X線回折ができるようになったことは大きい。また、SACLA、LCLS共通の課題としていたマグネットの強磁場化と測定効率向上のための冷却速度の改善に関してもおおむね順調に進められている。冷却効率については、マグネットフランジの一部を熱伝導率の高いサファイアに変えることで大幅に改善し、磁場発生後の冷却時間が従来の1/3程度にまで短縮することに成功した。マグネットの強磁場化については、現在開発の中間段階にあるがコイルに補強を施すことによって、数テスラ分の向上がテスト用マグネットで確認できた。以上のことから、装置開発の基盤となる部分はほぼ完了しており、全体としておおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、5月にLCLSでX線回折・分光同時測定、6月にSACLAでX線回折を行う予定である。装置開発の大部分は完了しているが、残された課題として、全体の運用と細かな点の洗い出しがある。特にLCLSは海外での実験のため、問題点は事前に出し尽くしておく必要がある。また、今回測定予定のスピンクロスオーバー錯体は転移磁場が温度で大きく異なるため、精密な温度コントロールが必要である。そのため、事前にゼロ磁場X線回折等の予備実験で温度変化を確認し、測定条件を詰めておく必要がある。 LCLS、SACLAの実験以降はデータ解析と論文の執筆を中心に行うが、前期の実験で十分なデータが得られなかった場合は、後期にSPring-8やSACLA等での追加実験を行い、それらも踏まえて博士論文としてまとめる予定である。
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