最終年度である本年度は、前年度に行った装置開発を踏まえた上で最終調整を行い、実際にスピンクロスオーバー錯体の測定を行った。試料にはこれまで磁化測定などで磁場誘起転移が観測されているスピンクロスオーバー錯体Mn(taa)を用いた。XFELの実験は、それぞれLCLSで粉末X線回折・発光分光の同時測定、SACLAで粉末X線回折を行った。 まず、LCLSでの実験に関しては、本研究で開発した装置をXFEL施設に導入することで、35テスラまでのパルス磁場下で初めて粉末X線回折・発光分光の同時測定に成功した。この実験では、発光分光の信号強度が微弱であることが実験を困難にするひとつの要因であったが、ピンクビームを用いてビーム強度を確保することにより、温度と磁場変化の両方でスピンクロスオーバー転移による格子定数とKβスペクトルの変化を観測することに成功した。 上記の粉末X線回折の課題として、ピンクビームを用いたことで、転移中の2つのスピン状態を回折パターン上で完全に分離するだけの分解能が得られなかった。そのため、SACLAでは単色光を用いたパルス磁場下のX線回折を行った。結果として、二結晶分光器で単色化したビームであれば、低スピンと高スピン状態を十分に分離できることが確認できた。また、この物質の磁場誘起スピンクロスオーバー転移では、磁化過程において大きなヒステリシスを伴うことが知られているが、本実験でパルス磁場とXFELのタイミングをずらした時分割測定を行ったことで、格子定数の変化においてもヒステリシスを観測することに成功した。上記の成果の一部に関しては、2018年秋の物理学会で発表し、現在論文として取り纏め中である。
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