研究課題/領域番号 |
17J01006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石井 良樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD) (20806939)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 密度汎関数法 / 第一原理計算 / イオン液体 / 分極力場 / 構造不均一性 |
研究実績の概要 |
イオン液体の構造と物性を記述するための相互作用モデルとして,Lopesの点電荷モデルが一般的だが,その分子動力学(MD)計算で得られる流動性は実在系よりもはるかに小さく,広範な組成系においてMD計算の確度を一律に保証するのが難しい。本研究の目的は,イオンの分極効果を考慮した分極力場を開発することで,そのような輸送係数の確度を包括的に向上させ,異なる組成の間で転用可能な力場を開発することである。申請者はまず,密度汎関数法に基づく第一原理計算を用いて,分極モーメントを顕に扱う関数モデルと,電荷を動的に変化させる関数モデルの有用性の検討をそれぞれ進めた。その結果,後者の方が計算コストとパラメータの転用可能性の兼ね合いから,広範な組成に適用可能であると期待されることが分かった。また,Blochl法とRESP-REPEAT法で得られる凝縮系の電荷分布を比較すると,Blochl法の方が原子サイトに働く電場と強い相関を示すことが分かり,分極力場への応用において有用であることが分かった。またイオン液体における構造不均一性の影響を調べるために,2000イオン対を全系とする非分極力場を用いたMD計算を実行した。その結果,イオン液体の輸送係数は構造不均一性との相関は小さいが,イオン液体に二酸化炭素分子が溶存した系では,二酸化炭素分子の分布に影響することが分かった。特に,構造不均一性が大きい系では,二酸化炭素分子が集まりやすく,この傾向が二酸化炭素分子の拡散挙動を特徴づけていると期待される。これらの研究成果は,3つの国際会議と3つの国内会議において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は,イオンの分極効果を記述する手法として,まず分極モーメントをあらわに扱うPoint DipoleモデルとDrudeモデルの構築を試みたが,多極子モーメントの計算コストが高い上に,輸送係数の実験値を高い確度で再現するには,カチオン中の分極効果を局在的に記述する必要が生じた。その一方で,凝縮系の分極効果を平均的に取り入れた部分電荷モデルでは,電荷サイトを増やさずに輸送係数の再現性が改善され,またその部分電荷も局所的な電場と良い相関が得られたことから,分極力場との調和性が高いと考えられる。この分極力場の開発は今年度の予定であったが,部分電荷モデルを用いた構造不均一性の議論,また二酸化炭素が溶存したイオン液体の物性の議論を予定より早く進めていることから,本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
密度汎関数法に基づく第一原理計算を用いて,イオン液体の分子の電荷分布を凝縮系で評価し,その電荷分布を再現できるような分極力場の構築を進める。このとき,計算コストを下げられるように部分的に分極効果を扱いつつ,広範な組成で転用可能なようにパラメータをイオン間で固定した最適化を試みる。特に2年目においては,異方的な形状のアニオンも扱うことで,より複雑な分極状態に対する検証を進める。またイオン液体に溶存した二酸化炭素分子の拡散挙動と溶媒和特性の評価を進め,溶媒和自由エネルギーを用いた拡散係数の関係の導出を試みる。特にイミダゾリウムイオンのアルキル鎖の増加や,圧力の増加が構造不均一性に及ぼす影響を調べることで,構造不均一性の存在が小分子の分布と物性に及ぼす役割を明らかにする。
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