研究課題/領域番号 |
17J01023
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古林 太郎 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 生命の起源 / RNAワールド / 寄生体 / 進化的軍拡競争 / 人工細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生命の起源で想定されるような単純な自己複製系においても避けがたく発生してしまう寄生性分子(ウイルスのようなもの)が、宿主との生存競争を通じて複製系に及ぼす進化的影響を実験と理論の両面から追求することである。平成29年度は実験研究および理論研究において、共に大きな進展が見られた。
実験では、人工のRNAゲノムと無細胞翻訳系を組み合わせて構築した単純RNA複製系を原始的宿主・寄生体複製系の実験モデルとして用いた。試験管内で長期的に継代している途中の宿主RNAと寄生体RNAの配列を次世代シーケンサーで解析した結果、宿主・寄生体とも変異を蓄積し続け進化している様子が見て取れた。とりわけ宿主配列の一部を獲得した新種寄生体は興味深く、宿主の特定の二次構造を真似ることで宿主が作るRNA複製酵素への結合能力を高めている可能性が示唆された。また、寄生体と宿主の相互作用なしでのコントロール進化実験との比較により、宿主は寄生体の存在下ではより高速に進化していることが判明した。寄生体なしでは進化が最終的に停止してしまう結果と合わせて、寄生体が宿主の進化にとって重要な駆動力となっている可能性が示唆された。
理論では、区画化された単純な宿主・寄生体複製系の数理モデルの構築と解析を行った。広いパラメータ空間上での網羅的な計算機シミュレーションの結果、原始地球でも実現可能であろう単純な区画ダイナミクスのみによって複製系が安定に持続可能な条件を見出した。また、複製系が安定に持続可能となるためには区画が多数あること、区画の融合分裂頻度が大きいこと、栄養が適度であることなどが重要な要件であることが明らかになった。これらの知見を用いれば、宿主と寄生体の相互作用の程度を段階的に変化させた新しい進化実験の条件設定を行うことができると考えられる。本理論研究の結果は、平成29年度内に論文化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験研究では予定通りに宿主と寄生体が共に進化する過程を観察できた上に、宿主の二次構造の一部を奪う形で新種寄生体が出現していたことや、寄生体が宿主進化を促進していることなど意義深く非自明な現象が起こったことが実験的に検証できたため。また、理論研究が独立した成果として論文の出版にまで至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
実験では、より詳細に配列解析を進め、進化途中のRNA集団の遺伝型組成を比較することにより宿主と寄生体の系統関係を推定し、共進化過程の全貌を明らかにする。また、宿主と寄生体が本当に共進化していることをより直接的に検証するため、進化途中の宿主・寄生体RNAのクローンを多数取得し、宿主と寄生体の競合複製実験を行うことで、各配列の相性が進化の過程でどのように変遷してきたかを明らかにする。
理論の方では、平成29年度に構築した理論モデルを改良して宿主・寄生体の共進化モデルを構築し、計算機シミュレーションを行って得られた宿主と寄生体の進化ダイナミクスを解析する。理論モデルで複製系のパラメータと複製子集団が示す挙動を紐付け、理論研究と実験研究の結果を比較し、共進化ダイナミクスに潜む普遍性の抽出をねらう。
これまでに実験研究で得られたデータから、予想以上に複製系の挙動が複雑であることが示唆されており、実験研究に全リソースを投入しなければならない可能性も十分にあり得る。平成30年度の目標としては実験研究の論文化を最優先とする。
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