研究課題/領域番号 |
17J01066
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
阿出川 さとみ 東京農工大学, 大学院生物システム応用科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | Bacillus thuringiensis / ABCトランスポーター / Bt毒素 / 受容体探索 |
研究実績の概要 |
土壌細菌が産生するBt毒素は昆虫側の受容体と特異的に結合することで高い殺虫特異性を生じる。今までの研究からBt毒素が昆虫側の受容体に結合できるよう変異を重ね、進化してきたことが考えられた。しかし受容体が明らかになっているBt毒素はごく一部である。本研究はBt毒素が利用できる受容体をより多く明らかにし、タンパク質工学的手法によるBt毒素の人為的改変の方法論を確立することを目的とする。本年度は3つの内容を主軸に研究を進め、以下のような成果を得た。 1. Bt毒素新規受容体候補同定のための受容体探索系の構築:当初計画していた方法では受容体とは考えにくい雑多なタンパク質 (夾雑物) ばかりが検出され、既知の受容体すら検出できなかったことから、夾雑物を減らし目的とする受容体候補分子を濃縮する、新しい探索系の構築を試みた。外注先の質量分析計が故障した関係で最終的な確認はできていないが、代表的なBt毒素Cry1Aaの既知の受容体であるABCトランスポーターC2 (ABCC2) を検出できる、新しい探索系が構築されつつある。2. 新規受容体候補分子の受容体機能の評価:先行研究で新規受容体候補として報告されていたABCトランスポーターA (ABCA) を発現させた培養細胞はBt毒素の一種であるCry2AaおよびCry2Abに対する感受性を示した。ゆえにABCAはCry2AaおよびCry2Abの機能的な受容体であることが示唆された。3. ABCトランスポーターとの結合に重要なBt毒素上のアミノ酸残基の解析:筆者の先行研究を基にさらなる解析を続けたところ、Cry1Aaのループ2、3の根元の領域のある決まった範囲に、細胞傷害活性や結合に重要なアミノ酸残基が何点か存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標であるタンパク質工学的手法によるBt毒素の人為的改変の方法論の確立に向けた準備を着実に進めている。特に「3. ABCトランスポーターとの結合に重要なBt毒素上のアミノ酸残基の解析」において、ABCトランスポーターとの結合に重要なアミノ酸残基がABCトランスポーターと結合できるBt毒素間で保存されている傾向があることが明らかになった。すなわち今後のタンパク質工学ではBt毒素のこの領域を改変すれば、受容体との結合親和性が高い毒素変異体を得られる可能性が高いという感触をつかんだことになる。また「1. 新規受容体の同定に用いる新しい探索系の構築」に成功しつつある。系の再構築をしていた関係で、受容体が既知のBt毒素でしか実験できておらず、本目的である受容体未知のBt毒素を用いた解析には至っていないが、本来計画していた探索系における問題発覚から半年でそれに換わる探索系を構築できたことは大きい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画とほぼ変わりない。具体的には以下の通り。 1. 幸いにも外注先の質量分析計の修理が終わったことから、前年度に構築した新しい探索系を用いて本研究の要である受容体未知のBt毒素の受容体探索を急ぐ。2. ABCトランスポーターとの結合に重要なBt毒素上のアミノ酸残基が存在する領域が、異なるBt毒素間でもある程度保存されている可能性を見出した。最終年度に予定されている変異毒素の選抜に先立ち、この保存領域のアミノ酸を異なるBt毒素間で挿げ替えた変異体を作製、解析することで、本研究の基礎理念に確信を持たせる。3. 最終年度のタンパク質工学による変異体Bt毒素の作製と選抜に利用する、ファージパニング手法を改築する。この手法は所属する研究室ですでに確立されているが、新規受容体候補はABCトランスポーターファミリーに属する膜タンパク質であることが予測されている。これらの膜タンパク質を高濃度に、かつ構造を壊さないようにプレートや担体に提示できる方法を模索する。 4. 2で得られた新規受容体に対するBt毒素の結合性を改変するタンパク質工学を実施し、得られた変異体毒素の受容体との結合親和性解析や細胞傷害活性を解析する。
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