本研究は,通常重力環境(1g)と微小重力環境(μg)において可燃性混合気の点火実験を行い,点火現象に及ぼす重力の影響を調査するものである.これまで,航空機による微小重力実験により,μgでは最小点火エネルギー(MIE)が低下することを明らかにした.また,火炎核が成長する過程において,特に燃料希薄混合気の場合,1gでは火炎核下部が浮力の影響により消炎する傾向を確認した.航空機実験は実験回数に限りがあるため,これまでの実験結果では重力影響を定量的に評価することが難しい.そこで本年度は簡易落下塔を構築し,それを用いて微小重力点火実験を行った. 静止混合気の点火実験では,これまでに得た実験結果と同様,μgではMIEが低下することが明らかとなった.その低下量は,燃料が希薄になるほど増加する傾向にあった.これは,燃料が希薄になるにつれて燃焼速度が低下するため,μgにおける浮力抑制の影響が相対的に大きくなるためだと推察される.流動混合気の点火実験では,MIEが流速に大きく依存することが明らかとなった.50cm/s以下の低流速では,流速の増加と伴にMIEは低下したが,それ以上に流速を増加させると流速に比例してMIEは増加した.これは,重力レベルに依らず,1gとμgの両方で確認された.低流速では,火炎核に未燃の混合気が供給されるため,燃焼が促進されMIEが低下したと考えられる.一方で,流速の増加は火炎核から周囲への熱損失の増加と等価であるため,ある流速以上では未燃混合気の供給効果よりも熱損失の影響が勝り,MIEが増加したと推察される. 以上,本年度は落下塔を用いて静止混合気と流動混合気の微小重力点火実験を行い,上記に述べた結果が得られた.今後は,数値解析やスケール解析などにより,実験では特定することが困難な物理量を評価し,重力そして流動の影響をより詳細に調査,解明する.
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