研究課題/領域番号 |
17J01089
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
坂野 逸紀 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 認知科学 / 実験心理学 / 統計的要約 / 姿勢制御 |
研究実績の概要 |
【目的】視覚情報は我々の行動を動的に修正するために用いられる。例えば、眼をつぶれば片足立ちはままならない。我々はある瞬間と別の瞬間の見えを比較し、身体の揺れを検知、姿勢制御に役立てていると考えられる。このときに用いられる視覚情報とは何か、それはどのように我々の姿勢制御をコントロールしているのかを明らかにすることが本研究の目的である。報告者は統計構造という、これまで着目されてこなかった情報がこの問題を解く要素だと考え、その影響について調べることを追求した。 【具体的内容】実験の標準的な手続きとして,実験協力者に視覚刺激を呈示し,その際の姿勢制御の状態を計測することが必要になる。しかしながら、統計構造といっても、その定義の仕方次第で無数の候補が存在しうる。様々な統計構造を思いつき、手当たり次第に測定実験にのせるのは非効率なやり方であるため,まずはヒトの視知覚にクリティカルな統計構造の候補を把握しておかねばならない。2017年度において,報告者は視覚特徴の共変関係に着目し,ヒトが「位置と何か」の共変関係を画面上から瞬間的に抽出・把握することを明らかにした。ただこれだけでは候補としては不十分である。我々の姿勢制御は基本的に無意識下の行動であり,その際に用いられる視覚情報処理も自動的なものとなる。従って,共変関係が姿勢制御に使われるには,その知覚が自動的な処理であることが必要条件となる。2018年度は,この疑問について詳細な検討を行い,共変関係の知覚が自動的処理によっていることを示唆するデータを得た。 【意義・重要性】この結果は、共変関係の知覚に関与する視覚機構が自動的に処理を実現しているという考えを支持する。また、本研究の目指すところである、姿勢制御に関与する統計構造の候補を、妥当性を持って定めることができたという点でも意義深いものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、どのような種類の統計構造が自動的な姿勢制御を支えているのか、実験測定を通じて明らかにしていくことにあった。過去に知られている物体の方位やサイズといった統計構造をそのまま試す予定であったが、既知の統計構造情報がそのまま自動的な姿勢制御に用いられているとは限らない。研究を安定して進めるためにも、用いるべき統計構造の候補は多い方が良い。報告者は新たな候補として特徴間の共変関係に着目した。2017年度の研究で、報告者は位置とサイズ,位置と方位といった2者間の特徴が線形的な関係で結ばれる際,我々がそれを知覚できることを明らかにした。しかしながら,それは1つ1つの要素に注意を向ける逐次的な処理で成立したものであって,瞬間的・自動的な処理とはいえないかもしれない。姿勢制御は自動的なものであり、それ故に制御のために用いられるであろう統計構造は注意のような認知資源を消費せずに処理されるものでなければならない。そこで視覚要素が1つずつ逐次呈示され,十分な処理時間を確保できる場合と,全ての要素が同時呈示される場合のパフォーマンスを比較した。実験協力者は各々の条件で画面上に複数呈示された円が保持する特徴の共変関係の程度を判断することを求められた。用いられた特徴はサイズ・方位・位置の3種であり、協力者は事前に教示された組み合わせに着目して課題を行った。その結果、両条件の正答率に変化は見られず,依然として「位置と何か」の共変関係に対する知覚の精度は頑健であった。初期の研究計画通りの実施内容とは異なるが、研究の進展を示す成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果はそれ自体研究成果として十分まとめられるものであるが、インパクトを備えた1つの研究として公表するためには補足的な実験が必要であろう。例えば「位置と何か」の共変関係の知覚が、本当に既存の機構で説明できないのかについて検討を加える必要がある。ヒトが平均方位・平均サイズといった画面上の平均情報を瞬間的に得られるという事実は過去に知られている。現状の実験パラダイムでは、平均を知覚する際に用いられる視覚処理機構で共変関係を問う課題に答えられるという問題が残っている。その可能性を踏まえた実験を行う。平均情報を利用するだけではうまく正答することのできないような視覚刺激を作成し、その際のパフォーマンスについて調べる。 加えて、統計構造と姿勢制御の関係という当初の疑問についても検討を行っていく。画面に存在する統計構造が維持される場合、それが変化する場合のそれぞれにおいて、姿勢の変動がどのように生じるかを検討する。もし我々がある空間範囲内の統計構造が不変であることを姿勢制御に利用しているのだとすれば、統計構造の時間的な乱れは姿勢制御の乱れを起こすことが期待される。姿勢制御の測定としては、フォースプレートを用いて測定する。ある時間範囲における重心移動の総軌跡長、および軌跡を囲む矩形の外周面積を、実験協力者がどれだけ安定して立っていたかの指標として用いる予定である。 2019年度の成果は、この年度の学会において発表すると共に、査読付き国際誌への投稿を予定している。
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