研究課題/領域番号 |
17J01101
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 千寛 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | アンリ・ルフェーヴル / 空間論的転回 / 日常生活批判 / 都市の哲学 |
研究実績の概要 |
本年度は、アンリ・ルフェーヴルの社会分析のふたつの大きな柱である日常生活批判と都市・空間論がどのように接続されているかという点をおもな焦点としながら、とくに彼の思想における時間と空間の関係について考察した。そして、その研究成果として1編の書評執筆と3件の学会報告をおこなうことができた。 具体的な研究の作業としては第一に、20世紀フランスにおける空間論の代表的な思想家として論じられることの多いルフェーヴルの議論をほかの思想家との位置関係で捉え直す作業をすすめ、その途中段階の成果を「書評 Spatial Ecologies: Urban Sites, State and World-Space in French Cultural Theory (Verena A. Conley, Liverpool University Press, 2012)」として発表した。 第二に日常生活批判と都市・空間論の接点をめぐって、『現代世界における日常生活』のなかの「テロリスト社会」というルフェーヴル独自の概念に着目しながら、比較的早い段階における空間に関する概念の使用を確認する作業を行なった。そしてこの成果を日本社会学理論学会第13回大会(2018年9月)において発表した。 第三に、都市の現実の「二重の幻想」という『空間の生産』における議論がそれ以前のマルクス読解や日常生活批判のなかのどのような萌芽的な議論と結びつくのかという点を検討し、これについてPhilosophy of the City 2018(2018年10月)において口頭発表をおこなった。 第四の作業として、ルフェーヴルがマルクスの時間の捉え方を方法論としてどのように評価し、それを自身の方法に取り込もうとしていたかという点に関して考察をおこない、その成果をマルクス生誕200年記念国際シンポジウム(2018年12月)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画全体のうち2年度目にあたる本年度の研究は、昨年度までの個別の概念を軸とした読解からより大きな枠組みとしての方法論の研究へと視野を広げることができた。そのなかで報告者は日常生活批判をめぐる一連の著作のなかから空間論への接続点となる「テロリスト社会」という考え方を見出すという独自の観点を導入したほか、主著とされる『空間の生産』における「二重の幻想」の議論の前史がすでに1968年以前に存在することを指摘し、現実主義に着目しながらこれを論文としてまとめはじめる段階に至っている。 書評発表1点、学会発表3回を通じて得られた成果は、本研究課題の折り返し点としては十分なものであり、最終年度の研究への手応えが感じられる成果である。とりわけ南米コロンビアで開催された都市の哲学研究集会において報告者にとって初となる外国語での口頭発表にチャレンジして関心の近い海外の研究者からフィードバックを得られたことは大きな成果である。また国際シンポジウムである「マルクス生誕200年記念国際シンポジウム」に登壇し、マルクス研究者から助言を得られたことも大きな収穫であった。 ただし、初年度末の時点での見通しでは、本年度の研究はルフェーヴルの方法論と科学観というふたつの課題に取り組む予定であったが、後者の課題の具体的な作業として位置づけていた『科学の方法論』や『形式論理学と弁証法論理学』の第3版への序説といった諸文献の分析に関しては最終年度に後ろ倒しにすることとなった。その理由は、前者の時間と空間をめぐる方法論についての考察が、これまであまり着目されてこなかった「現実的なもの」や「現実主義」といった重要なキーワードと結びつくことが判明し、こちらの分析を前進させることを優先したためである。 しかし方法論の研究に関しては大きな進展があったため、総合的な自己評価としては「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、本研究課題の集大成となる博士論文の執筆を本格的に開始する。そのための作業として、第一に本年度の研究の展開上じゅうぶんに取り組むことのできなかった「科学・技術」にかんするルフェーヴルの姿勢をとくに『日常生活批判Ⅲ』における情報社会化についての議論に着目しながら検討する必要がある。 また第二に、ルフェーヴル自身が晩年に自身の思想家としての位置づけをヘラクレイトスからハイデガーにいたる系譜の上に位置づけていることについても詳細な検討が必要となる。そのための作業として想定されるのは、ひとつにはコスタス・アクセロスとの影響関係の研究であり、もうひとつはハイデガー『思惟とは何の謂いか』を念頭に書かれた『思惟とは何か』の丁寧な読解作業である。 これらの作業を進めつつ、同時に所属大学における博士論文執筆のための第一関門にあたる博士論文リサーチコロキアムにむけて本研究課題の成果をその連関のなかで整理しなおすことが最終年度のおおまかな研究方針となる。
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