研究課題/領域番号 |
17J01122
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋沢 宏紀 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ウシ / 初期胚発生 / 栄養膜細胞 / トロホブラスト / 分化 / 胚盤胞期胚 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究の遂行上重要となる、ウイルスベクターによる培養細胞および胚への遺伝子導入の条件について詳しく検討した。ウシにおいてウイルスベクターによる遺伝子発現を行った知見は少なく、目的のcDNAを安定的に発現させるための適切なプロモーターの選択から行う必要があった。そこで、哺乳類で頻用される各プロモーター下で蛍光タンパク質Venusを発現するウイルスを作製し、ウシ胎子線維芽細胞に感染させ、蛍光観察によりプロモーターの活性を評価した。この結果、汎用プロモーターであってもウシ細胞における活性には違いがあることが明らかとなった。また、胚への遺伝子導入の手技を習得するために、受精卵を得ることが容易なマウスを用いて、ウイルスの感染方法の検討を行った。ウイルス感染による胚への遺伝子導入では、透明帯を除去しウイルス粒子を含む培地中で培養する方法と、高度に濃縮されたウイルス液をマイクロインジェクションにより透明帯と細胞質の間隙 (囲卵腔)に直接注入する方法の2つが報告されていた。この二つの方法を比較検討した結果、ウイルス液の囲卵腔注入のほうが遺伝子の導入効率が高いこと、さらに、ウイルス液は体積比で少なくとも100倍以上濃縮したものを用いる必要があることが分かった。ウイルスベクターへの目的遺伝子のクローニングは完了しており、来年度はじめにウシ体細胞および胚への遺伝子導入と解析を開始する予定である。 一方、ウシ初期胚発生のメカニズムをより広範に理解することを目的に、胚盤胞期胚のTEで高発現するTEAD4およびCCN2遺伝子の機能解析も行った。ノックダウン等の手法を用いることにより、ウシ初期胚においてはこれら二つの因子が相互に制御しあいながら、TEの分化に貢献していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主としてレンチウイルスによるウシ体細胞および胚への遺伝子導入系の確立に注力した。関心遺伝子の機能解析まで取り掛かる準備段階として、標的遺伝子のクローニング、レンチウイルスの作製およびその感染系の確立に取りかかった。 ウイルスを用いた遺伝子導入は本研究室初の試みであり、熟練者に手技を教わる必要があった。これにかかわる出張、さらには当研究室における実験系の立ち上げに予想以上の時間を要した。特に、胚への遺伝子導入において必須とされるウイルス粒子の濃縮に関しては、超遠心法のほか、低速で長時間遠心する方法、PEGをもとにした試薬による方法、フィルターを用いた方法など多岐にわたる方法が提唱されており、再現性と効果の2点でこれらの方法の比較検討を行わなければならなかった。フローサイトメーターなどの機器が容易に使用できない環境にあるため、別の方法で力価を定量的に評価する方法の探索も綿密に行った。しかし、詳細な検討の結果、簡便に高力価のウイルスを得る系が確立され、遺伝子導入効率の低さに対する懸念は払拭されたと考えている。系の確立の後に、胚が容易に準備することができるマウスにおいて予備試験を行い、感染および発現を確認し、来年度の予定を円滑に開始できる土台が固まったと考えている。 一方、並行して行っていた胚盤胞期胚の分化機構に関する研究では、これまでに培われた手法を駆使することによりインパクトのある成果が得られた。これをもとに国内外で学会発表を行い、さら論文が国際科学誌Reproductionに受理され、掲載が決定している。多少の遅れはあるものの、設定したテーマに基づき着実に研究が遂行されており、一定以上の成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は胚性分泌因子の機能を解明することを目的としている。そのためまず、遺伝子導入を行った細胞から、目的のタンパク質が分泌されていることを確認しなければならない。培養上清についてウエスタンブロッティングを行い目的タンパク質の発現を定量的に評価する。培養上清中に十分量の目的分泌タンパクが含まれていることを確認してから、胚との共培養を行う。この時、当初予定していた古典的、非古典的経路の作動を関係分子の免疫染色等により検証するという実験のほか、胚に起こる全体的な遺伝子発現の変化をとらえるためのマイクロアレイ解析の実施も検討している。ウシにおいては着床周辺期発生の体外培養モデルが存在しないことから、胚盤胞期以降の発生を主導する分化メカニズムの大部分が不明である。そのため、伸長期において発現が亢進する分泌因子がどのような機序で胚の生存や発生に関与するかを完全に予測することができない。これまでマウスで提唱されてきたモデルによらないウシ独自の発生機構を導き出すため、このような網羅的な解析が有効であると考えている。このほかに、死細胞の検出による生存性の評価や、分化関連タンパク質の免疫染色などによって、分泌因子の感作による胚の変化の定性的な評価も行う必要があると考えている。最終的には、分泌因子の存在下で培養した胚盤胞期胚を子宮に移植し、母体内における生存性や着床、受胎に与える影響についても検討したい。
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