研究課題/領域番号 |
17J01136
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 昌紀 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 錯体ポリマー / 発光 / 耐熱性 / エネルギー移動 / Eu / Tb |
研究実績の概要 |
有機発光体はディスプレイの薄膜化やデバイスの軽量化など優れた形成加工性を有するが、現存の無機発光体と比較して熱で分解しやすい問題点がある。そこで本研究は強発光・高熱耐久材料の実現を目指し、分子の熱振動を極限まで抑えたEu(III)錯体ポリマーの創成を目指す。これまでにCavkaらは無機クラスターを架橋配位子に用いて、500度でも壊れない超高熱耐久性有機材料の開発に成功し、報告している。 そこで、私はEu(III)錯体ポリマー中に架橋配位子として剛直な無機骨格有する金属クラスター配位子の導入を検討し、分解温度500度以上・発光量子収率90%以上の有機発光体の創成を目指した。具体的には金属クラスター配位子としてシルセスキオキサン(POSS)誘導体を利用し、POSS末端部に種々のホスフィンオキシドを導入する。合成はPd(0)触媒を用いたカップリング反応を利用し、反応条件の最適化を試み、POSSクラスター配位子とEu(III)錯体を錯形成させることで、目的のEu(III)錯体ポリマーの合成を目指した。 発光性希土類錯体は優れた光機能を有するため、有機光学デバイス材料として応用が期待されているが、耐久性の面で課題があった。本研究が完遂することで、これまでの有機発光体では達成困難だった熱安定性を獲得できるだけでなく、優れた加工性と発光効率に優れた発光材料の創成が可能となる。今年度の研究実績は本研究課題の基盤となる研究成果を1報、学術論文誌に報告した。また、国内および国際会議に参加し、4件の研究成果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は強発光・高熱耐久性材料を実現するために分子の熱振動を極限までに抑えたEu(III)錯体ポリマーの創出を目指している。研究計画では、POSSを骨格とした金属クラスター型架橋配位子の利用を計画していた。しかし、昨年度の研究にて、POSS末端にホスフィンオキシドの導入が困難であることから、以下のように研究の方針を変更した。 ①テトラフェニルメタン骨格を有する希土類錯体ポリマーの創出 本研究ではテトラフェニルメタン骨格を基盤とした有機分子のみで構成されるsp3型立体架橋配位子を新たにデザインし、希土類錯体を規則的な三次元配列ポリマーの創成を目指した。本分子を利用することで、従来型の三次元錯体ポリマーでは達成が困難であった、希土類錯体の強発光性を維持した新たな希土類錯体ポリマーの創出が可能となる。昨年度までは目的のsp3型立体架橋配位子の合成まで取り組んだ。錯体ポリマーを形成する際に、嵩高いEu(hfa)3錯体同士の立体反発を防ぎ、錯体間の距離を制御するために、フェニル基とホスフィンオキシド基の間にアルキンを導入した配位子の合成に取り組んできた。 ②ホスフィンオキシド配位子によるTb(hfa)3錯体の逆エネルギー移動過程への影響 当研究室はこれまでに温度によって発光色が変化する分子材料として「カメレオン発光体」を報告している。現在、カメレオン発光体の温度領域を制御することが課題となっていた。本研究ではカメレオン発光体の感温特性を決定づけるTb(hfa)3錯体の発光特性に着目した。昨年度の研究から、異なるホスフィンオキシド配位子を導入することで、Tb(hfa)3錯体の感温性に違いが生じることが明らかになった。錯体の構造によってアンテナ配位子hfaの励起寿命が異なることが原因だと考察している。
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今後の研究の推進方策 |
①テトラフェニルメタン骨格を有する希土類錯体ポリマーの創出 テトラフェニルメタン分子のパラ位方向にホスフィンオキシド分子を導入した新規配位子の合成法を確立する。さらに、立体架橋配位子の鎖長を変化させるために、フェニル基とホスフィンオキシド基の間にスペーサーとしてアルキンの導入も試みる。具体的にはEnglintonカップリング反応などを利用してアルキン、ジアルキン、トリアルキンを導入したテトラフェニルメタン骨格を有するホスフィンオキシド配位子を順次合成していく。得られた立体配位子は核磁気共鳴(NMR)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、質量分析および元素分析にて同定を行う。 得られた各立体架橋配位子をEu(III)錯体:Eu(hfa)3(H2O)2と有機溶媒中で錯形成反応させることで、目的のEu(III)錯体ポリマーの合成を行う。得られた錯体ポリマーもFT-IR、質量分析および元素分析で同定を行う。錯体ポリマーの精製および構造解析を行うために、液液拡散法をもちいて単結晶を作成する。単結晶X線構造解析によりEu(III)イオン周りの配位環境評価および錯体ポリマーの構造解析を行う。 また、得られたEu(III)錯体ポリマーの発光特性および熱安定性評価は粉体状態で実施する。発光特性は拡散反射吸収スペクトル、励起発光スペクトル、発光寿命および発光量子収率測定より評価する。熱安定性は熱重量示差熱分析(TGDTA)と示差走査熱量測定(DSC)によって評価する。得られた実験成果をまとめ、学術論文誌に投稿するほか、国内の専門学会にて報告する予定である。 ②ホスフィンオキシド配位子によるTb(hfa)3錯体の逆エネルギー移動過程への影響 本研究成果をまとめ、学術論文誌へ投稿する。また、国内外の学会にて研究発表を行う予定である。
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