研究実績の概要 |
生体膜に囲まれており、かつ多様な生体分子が高濃度で混在することで水和環境が希薄溶液中と大きく異なるミトコンドリア膜間部において、どのように電子キャリアタンパク質シトクロムc(Cyt c)からシトクロムc酸化酵素(CcO)への電子移動反応を実現しているかについて種々の分光的手法を用いて検討した。 水和環境の変化がCyt cの電子伝達活性に与える影響を検討するため、タンパク質表面から脱水和を誘起するポリエチレングリコール(PEG)を溶液中に添加した系におけるCyt cの電子伝達活性の測定を試みた。その結果、PEG存在下においてCyt cの還元電位が40 mV程度ダウンシフトし、CcOを加えていない段階でCyt cが自動酸化するという予想外の結果が示された。このCyt cの自動酸化の原因となる構造変化を追跡するため、ヘムの相対配置を鋭敏に反映する蛍光共鳴エネルギー移動を用いた測定を行った結果、PEGの添加によってCyt c表面から脱水和が誘起された際、Cyt cはヘムの1Å程度の位置変化を伴う微細な構造変化が誘起されていることが示唆された。さらに、変異体Cyt cを用いた実験より、自動酸化に至る構造変化の原因となる脱水和がヘム近傍に位置する疎水性アミノ酸残基Ile81, Val83周辺からのものであることが明らかとなった。これらの疎水性残基は先行研究のCyt c-CcO複合体のドッキングシミュレーション(Sato et al., J. Biol. Chem., 2016, 291, 15320)よりCcOとの会合時に表面から脱水和が誘起されることが予測されており、Cyt cヘム近傍の水和環境変化が還元電位の低下を通してCcOへの電子伝達反応を促進している可能性が新たに提唱された。
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