研究課題/領域番号 |
17J01176
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長野 晃士 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 重力波検出器 / 量子光学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、重力波検出器KAGRAと次世代重力波検出器の量子雑音を低減する手法を開発することである。そのために、本年度は、KAGRAにおける量子ロッキング手法の検討と、日本の次世代重力波検出器である宇宙重力波検出器DECIGOの干渉計方式の検討などを行った。 現在、岐阜県飛騨市の地下に、日本の重力波検出器KAGRAの建設が進められている。KAGRAは2018年5月にkmスケールの重力波検出器としては世界初となる低温鏡を使った試験運転を行い、2019年内の本格運転開始が予定されている。そのインストール作業と並行して、KAGRAの今後のアップグレード計画の検討が行われている。その中で、量子ロッキングとよばれる量子雑音低減手法の検討を行った。量子ロッキングとは、レーザー干渉計のテストマスの運動を短い干渉計で測定して制御することで、量子雑音の一つである輻射圧雑音を低減する手法である。この成果は、今後のKAGRAのアップグレード計画に示唆を与えるものである。 日本の次世代重力波検出器としては、宇宙重力波検出器DECIGOが計画されている。DECIGOの感度は、主に量子雑音で制限されると考えられている。従って、DECIGOの性能をさらに向上させるためには、量子雑音の低減が必須である。ただ、量子雑音の低減方法は、レーザー干渉計の構成に依存するが、DECIGOの干渉計構成は未だ検討中である。そこで、DECIGOの量子雑音低減手法の検討のために、DECIGOにむけた干渉計の実証を進めている。特に、一つのFabry-Perot共振器に両側からレーザー光を入射させる双方向Fabry-Perot干渉計と呼ばれる方式を実証するのためのプラットフォームの開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、将来的なKAGRAの量子雑音低減手法の候補の一つである量子ロッキング手法の検討や、日本の次世代重力波検出器である宇宙重力波検出器DECIGOの干渉計方式の実証を行った。以下、具体的に説明する。 まず、量子ロッキング手法とは、レーザー干渉計のテストマスの運動を短い干渉計で測定して制御することで、量子雑音の一つである量子輻射圧雑音を低減する手法である。これまで、量子ロッキング技術を大型の重力波望遠鏡に導入する検討が行われたことはなく、今回はじめて、重力波検出器KAGRAに導入することを目指して検討を進めた。本年度は、既にKAGRAで使用されている小型の防振装置や、安定化レーザーを用いることで、量子輻射圧雑音を低減できる可能性を示すことができた。 また、日本の次世代重力波検出器としては、宇宙重力波検出器DECIGOが計画されている。DECIGOの感度は、主に量子雑音で制限されると考えられている。このDECIGOの量子雑音低減手法の検討を進める中で、まず具体的な干渉計方式を決定する必要があることが明らかになった。特に、軌道上で自由に動く衛星の制御と干渉計制御の両立性を確認することが重要であった。そのため、今年度はまず、DECIGOの動きを地上で模倣するための懸架装置を設計・構築した。この懸架装置は、軌道上での自由な衛星の動きを再現するために、非常に柔らかく懸架する必要があった。例えば、衛星を模倣する定盤のねじれ方向共振周波数は0.01 Hzと設計した。この懸架装置を実際に構築し、前述の自由度の共振周波数を0.1 Hz以下であることを確認し、十分に軌道上での運動を模倣できることを確認した。 本年度は、以上のような成果があり、本研究は期待以上の進展があったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに進めた研究をさらに発展させていくことを目指す。 量子ロッキングについては、まず、さらに量子雑音を低減する手法の検討を行う。量子ロッキングを用いた量子雑音の低減は、ホモダイン検波などの他の量子雑音低減技術を組み合わせることで、さらに量子雑音を低減できることが示唆されている。今後はそのような新しい量子ロッキング手法の研究を行う。具体的には、光学機械相互作用の一種である光バネを利用した量子雑音低減技術と組み合わせることにより、より広帯域で量子雑音を低減する手法を開発する。また、実際にKAGRAに導入するための検討をより具体的に進める。例えば、量子ロッキング用の補助共振器の信号取り出しのための光学システムや、レーザー周波数安定化のための制御手法を検討する。 DECIGOの量子雑音低減に向けては、引き続き干渉計構成の決定のための実証実験を進める。まず、固定された光学定盤で、実際に基線長が50 cm程度の双方向Fabry-Perot干渉計を構築する。この干渉計を用いて、信号取得方法の実証、双方向構成特有の雑音の検証を進める。その後、これまでに構築した懸架装置上に干渉計を移し、軌道上での双方向Fabry-Perot干渉計運用を実証する。これにより、双方向Fabry-Perot干渉計で実現可能な量子雑音低減法の検討を進める。 以上のような計画に基づき、KAGRAおよび次世代重力波望遠鏡の量子雑音低減法の開発を進めていく。
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