研究課題/領域番号 |
17J01238
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
花井 亮 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 励起子ポラリトン / 非平衡相転移 / 非エルミート量子力学 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 半導体レーザー / 臨界現象 |
研究実績の概要 |
半導体量子井戸に微小共振器を挟んだ構造で生成する励起子ポラリトン系では、光照射強度が閾値を超えたところでボース・アインシュタイン凝縮(BEC)が実現する。一方、さらに強い光照射強度では、通常の半導体レーザーデバイス(LASER)として作動することが知られている。興味深いことに、ポラリトンBEC・半導体レーザーは共通して自発的にU(1)対称性が破れた相であるにもかかわらず、その間に相境界があることが多くの実験グループにより観測されている(「第二閾値」)。共通した対称性を持つにもかかわらず、なぜこのようなBEC-LASER転移が起こるのかを説明する理論はこれまでなかった。 今年度の研究では、このような相転移が非エルミート性によりもたらされたものであることを理論的に示すことに成功した。まず、流入・流出のある電子正孔光子気体に対する一般的な運動方程式を定式化し、その定常解が2つのタイプに必ず分類できることを示した。これら2つのタイプはそれぞれ、上下のポラリトンモードに凝縮した状態に対応する。これらのモードは熱平衡系では直交するが、本系のような非平衡系では非エルミート性が生じるため、その限りではない。結果、2つの解が合体する例外点が現れ、その点が気液相図における臨界点と同様、一次相転移線の終端点となることを示すことに成功した。この理論は、レッド(ブルー)・デチューニング領域においてポラリトンBECと半導体レーザーの間に必ず相転移線がある(相転移線に終端点がある)ことを予想するが、これは現存する実験報告と合致する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、励起子ポラリトン凝縮体の持つ非エルミート性が非平衡相転移現象を引き起こし、その相転移線には終端点が存在することを理論的に示すことに成功した。本研究で明らかになった相転移機構は、熱平衡極限の対応物のない、新たなタイプの非平衡相転移現象である。このことは、当該研究分野で長年議論されてきたボース・アインシュタイン凝縮とレーザーの関係が、非平衡性によって「気体と液体」の関係性と類似したものになることを示している。なお、この理論から予想される相転移現象の起こる領域は、現存する実験報告と定性的に合致する。 この研究で提案された相転移現象は、2つのオーダーパラメターが結合した非平衡多体系であれば一般的に起こりうる。今後、超固体相や冷却原子気体などの他の系での検証が期待される。これほど一般性の高い現象を説明する理論を構築することは、当初の計画になかったものである。 以上より、研究は「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度その存在を示すことに成功した、相転移線の終端点における非平衡臨界現象について解析していく。さらに、超固体相や冷却原子気体などの量子系やアクティブ・マターや生物系などの古典系の幅広い系で、同様の現象が起こりえないかについても、理論的に検証する予定である。
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