本研究では、造血免疫系ヒト化マウスが抱える問題点(①免疫不全マウスの使用、②骨髄破壊的前処置によるレシピエントへのダメージ)を改善するため、既存の造血幹細胞移植法を改良することにより、新たな造血幹細胞移植モデルの作製を目的とした。 移植のレシピエントとして造血幹細胞を欠損する遺伝子改変マウスの胎仔を用いた。免疫抑制や移植によるリスクを避けるため、妊娠マウスの胎盤に造血幹細胞を移植する「経胎盤移植法」を用いた。この方法により、発生中期胚への造血幹細胞移植が可能になり、移植前処置に伴う危険性を減らしレシピエントへのダメージを最小限にするシステムを確立することができた。 この方法を用いて、造血幹細胞を欠損するマウス胎仔に、マウス(同系)造血幹細胞の移植を行った。移植後、出生直前の胎生18.5日胎仔を帝王切開により摘出し、解析を行った。その結果、移植を行わなかった胎仔は貧血を呈し、CD45陽性血液がほとんど存在しなかったのに対し、移植を行った胎仔はドナー由来血液細胞が95%以上を示し、またコロニー形成アッセイ解析では、ドナー由来細胞がコロニー形成能を有することを確認した。さらに、レシピエントの体内において、ドナー由来の造血幹細胞がB細胞やT細胞、マクロファージへ分化していることが明らかになった。 ラット胎仔肝臓細胞を用いた異種移植の結果では、ラット由来CD45陽性細胞がレシピエント体内に生着している個体を得ることができた。また、ラット由来赤血球の生着率が高かったことから、ドナー由来の赤芽球系細胞は、造血幹細胞を欠損した遺伝子改変マウスの胎仔に生着しやすいことが考えられ、免疫不全マウスにおける赤血球出現率の低迷を克服する可能性が示唆された。ヒト臍帯血造血幹細胞の移植実験では、胎生18.5日レシピエント胎仔および4週齢マウスの末梢血においてCD45陽性ヒト血液細胞を検出することができた。
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