本年度は、炎症に関わるKlebsiella pneumoniae 2H7株(Kp-2H7)の定着阻害に関わる研究をさらに進めた。この菌は元来口腔内常在菌であるが、腸管内に定着することでTh1細胞を異常に活性化させ、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の発症に関与している可能性があると考えられている。炎症性腸疾患では長期の炎症ののちに大腸がんの発生リスクが高まると言われている。本年度は、Kp-2H7の腸管内への定着を阻害する腸内細菌群を同定し、またその機序を探索する研究を継続して行った。具体的には、Kp-2H7のみが定着した単一菌定着マウスを用いて、ヒト健常者ドナーの便から単離培養した腸内細菌群を投与し、Kp-2H7の腸管内での菌量が減少することを確認した。さらに、その腸内細菌群の中から排除に重要なものを絞り込んだ。腸内細菌の中には宿主特異性がある菌株もあるが、今回同定したこれらの菌群はヒトから単離しており、ヒトに定着しうるものであるので、ヒトへの治療につながる可能性がある。 さらに、疾患に関与する菌の定着を阻害する菌やその機序の探求のため、特にTh17細胞に関する腸内免疫学の研究者である米国Columbia大学のDr. Ivanovの元で研究を進めた。 以上、本年度は炎症を誘導するKp-2H7の定着を阻害する腸内細菌群に関する研究を進め、関与する菌群の同定をした。ヒト常在細菌によってKp-2H7や疾患に関与する菌の定着を阻害する新しい治療戦略につながる可能性のある成果と考えられる。
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