研究課題
平成29年度は、加齢に依存しない眼疲労の他覚的定量評価法を確立するために、10代から50代の被験者40名に対して実験を行った。実験は、30分間の視覚負荷(3D ゲーム)の前後に、融像維持能力の測定と自覚的な眼症状に関するアンケート調査を実施した。その結果、融像維持能力は加齢による変化がなく、視覚負荷後に有意な減少を認めた。自覚的な眼症状スコアは視覚負荷後に有意に増加しており、融像維持能力と自覚的な眼症状スコアの間には、有意な強い負の相関が見られた。新たに考案・開発した融像維持能力測定法は従来の眼疲労評価法よりも眼疲労の検出精度が有意に高いことが示された。以上の結果から、融像維持能力測定法は、加齢に依存しない眼疲労の他覚的定量評価法になり得ると言える。本研究成果をまとめた論文は 2018年3月に Translational Vision Science & Technology に掲載された。また、眼疲労検査装置及び眼疲労検査方法という名称で申請した特許は国内、国際ともに特開となった。続いて, 眼が疲れ易い(易眼疲労性)ことがアンケート調査によって報告されている間欠性外斜視患者と、健康人被験者を対象に、視覚負荷を与えた前後で融像維持能力を測定した。その結果、視覚負荷を与えると、両群とも融像維持能力が低下したが、間欠性外斜視群のほうが健康人群よりも自覚的眼症状スコアの増加に対する融像維持能力の減少率が有意に高かった。従って、他覚的な評価によっても間欠性外斜視患者は眼が疲れ易い事が示された。本研究成果は現在論文執筆中である。
1: 当初の計画以上に進展している
眼疲労の他覚的定量評価試験として、世界中の各企業が続々と参入しているバーチャルリアリティヘッドマウントディスプレイ (VR-HMD) に焦点を当てた。使用機器はPlayStation VR (Sony)と従来の平面(2D)ディスプレイを採用した。30分間の視覚負荷後VR-HMD、2Dディスプレイともに融像維持能力の有意な低下と自覚的眼症状スコアの有意な増加が見られた。しかし、融像維持能力、自覚的な眼症状スコアともに、VR-HMD と 2D ディスプレイの間に有意差は認めなかった。現在の主流な研究は、映像酔いの緩和方法に主眼が置かれており、眼疲労の評価はされていない。本研究は、VR機器が一般に広く普及した際、安全性を考慮する上で重要な役割を果たすことが期待出来る。本研究成果は現在論文投稿中である。三社から自社開発段階製品の眼疲労を他覚的に評価して欲しいと依頼が来た。共同研究を実施する前段階として、試験デザインを構築した。結果として、凸版印刷株式会社、株式会社メニコンと共同研究を実施する事になった。眼疲労を他覚的に定量評価出来る検査法は、幅広い分野の企業が興味を持っており、3社から協同研究の打診があった。内2件は共同研究契約を締結して臨床試験の実施する準備を進めており、産学連携研究に発展している。眼精疲労を来す外斜位患者の眼球運動の研究に関しても、スマートフォンを近距離で使用すると、斜視になりやすいという社会にアピールできる成果を得て、国際誌に論文を投稿中である。以上より、本研究の進捗状況は良好と言える。
平成30年度の研究は、眼疲労を抑制できる光学設計のレンズについて検討する。現在、株式会社メニコンとの共同研究契約を締結する準備を進めている。また、現在までに100例以上の健康人の融像維持能力データを集積出来た。目標である140例に到達したところで、融像維持能力測定法における眼疲労のカットオフ値を算出し、眼疲労の重症度を自動判定できるソフトウエア開発に取りかかる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
Translational Vision Science and Technology
巻: 7 ページ: tvst.7.2.9
10.1167/tvst.7.2.9
眼科臨床紀要
巻: 11 ページ: 43-48
視覚の科学
巻: 38 ページ: 114-121
10.11432/jpnjvissci.38.114
巻: 38 ページ: 72-75
10.11432/jpnjvissci.38.76