研究課題/領域番号 |
17J01308
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
濱 侃 千葉大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | スマート農業 / ドローン / リモートセンシング / 光合成 / 食味評価 |
研究実績の概要 |
本研究は,UAV(ドローン)を用いた近接空撮に基づくリモートセンシングによる水稲モニタリング手法の高度化とその検証を目的とし,平成29年度は主に以下の項目の検討を行った。 ①草丈推定においては,NDVIpv(植生のみを抽出し算出したNDVI:正規化差植生指数)を説明変数に使用した草丈推定モデルを導出した。コシヒカリを対象に,千葉試験地の多年次および新潟試験地に適用した結果,モデルの RMSEは0.062mとなり,多年次,他地域に同一の草丈推定モデルを適用した場合でも推定結果に大きな差はなく,同一の推定モデルを適用することができた。 ②収量推定では,日射量をUAVモニタリングによる出穂期のNDVIpvと統合することで,収量推定モデルを導出した。収量推定モデルを,千葉試験地の多年次および新潟試験地,埼玉試験地に適用した結果,RMSEが24.8g/m^2;(平均収量:542.6g/m^2)となり,生育条件が異なる条件における収量の多少を再現することができた。これは,光合成能力および光合成に伴う炭水化物生産量を評価しているためと考えられる。 ③玄米タンパク含有率推定に際しての観測適期を検討した結果,出穂期のNDVIが最も玄米タンパク含有率との相関が高くなった。これは,田植え時期に起因する生育ステージの変動の影響が小さくなるためと示唆された。また,本研究では,登熟期の気温が高いほど,タンパクが低くなることを示したが,登熟期の気温がタンパクに与える影響は,NDVIがタンパクに与える影響よりもはるかに小さかった。 ④水稲群落の表面温度とNDVIの相関を解析した結果,朝方の時間帯を除き,群落の表面温度とNDVIには負の相関があり,NDVIが高いほど,表面温度が低いことがわかった。これは高温条件下でも植生の活性が高いことにより蒸散が活発になることによるクーラー効果が関係していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,UAV(ドローン)を用いた近接空撮に基づくリモートセンシングによる水稲モニタリング手法の高度化とその検証を目的とし,以下の重点課題を設定している。①追肥の適期となる幼穂形成期から出穂期の草丈,葉色の推定。②収穫作業の計画に重要となる収量の推定。③食味に関わるタンパク含有率の推定。④米の外観品質・等級を下げる高温登熟障害の観測を目的とした,熱赤外カメラを用いた水稲の表面温度と生育量の面的観測。⑤圃場ごとの多様性,地域差,品種間差による生育特性の違いの比較・観測。 現在までに,上記の項目の全てに着手し,検討を行うことが出来ている。また,その成果は,2件の査読付き論文および7件の学会発表にて発表を行っている。その結果,2件の優秀発表賞を受賞することができた。 当初は,平成29年度の取り組みとして,新たなマルチスペクトルカメラ(RedEdge)を導入した水稲のモニタリングに基づくデータの蓄積と,これまでの使用してきたマルチスペクトルカメラ(Yubaflex)との比較を計画していたが,平成29年度の観測が始まる前の段階でマルチスペクトルカメラの比較と検証を行うことができた。その結果,Yubaflexで十分であることを検証することができた。これは手法の実利用を考えたとき,重要な知見である。 なお,論文の執筆や学会活動以外にも研究成果および手法の普及・実利用に向けた取り組みも行っており,セミナーでの講演,ホームページで一部成果の公開を行っている。加えて,協力者の方々には,具体的な解析手法・手順をまとめたマニュアルを配布した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も,各試験圃場でのルーチン観測を継続し,データの蓄積と比較を行う。加えて,生育量観測に基づく施肥基準の検討も行う。 現在,UAV(ドローン)を用いた生育むらの計測は行われているが,具体的な生育調整に向けた追肥量の基準は検討できていない。そのため,施肥基準の作成に向け,稲体窒素吸収量の推定モデルの作成を行う。この推定モデルが作成できれば,これまでに各試験場が検討してきた追肥施用量の基準をドローンでの観測結果に応用することができると考えられる。同時に,稲体窒素吸収量を評価するために行われてきた生育調査(草丈,茎数,SPAD:葉色)の計測に変わる,新たな生育調査の手法としての価値が高まると考えられる。 なお,稲体窒素吸収量は群落クロロフィル量,バイオマスと密接に関わるため,本研究で作成される推定モデルは,植生および環境計測の視点からも重要な手法となる。 平成29年度の観測を終え,改めてドローンに搭載するセンサが重要であることを再認識した。現在,ドローンに搭載可能なマルチスペクトルカメラとしてはRedEdge(MicaSense社)が世界の標準となりつつある。ただし,高価であるため,今後安価なマルチスペクトルカメラが新出した場合は,そのカメラについても導入・比較が可能かどうか検討を行う。
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