研究課題/領域番号 |
17J01317
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大村 早紀 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 伝統木造建物 / 大垂壁付き架構 / 耐震性能評価 / 耐震補強 / 崩壊形 / 柱の折損 / 静的加力実験 / 骨組解析 |
研究実績の概要 |
1. 力学的特性の解明 過去の大垂壁付き架構の静的加力実験より、大垂壁付き架構の柱は、接合部において曲げ強度の半分程度の縁引張応力度で折損する傾向があることを確認している。大断面の柱(180角)を持つ大垂壁付き架構の静的加力実験を実施し、大断面柱の場合も、120角や150角の柱を持つ試験体と同様に、接合部において低い曲げ耐力で柱が折損することを示した。また、過去の一連の実験結果から、大垂壁付き架構の崩壊形を「1層崩壊形」と「全体崩壊形」の2つに分類した。まず、接合部においてすべての柱が折損する1層崩壊形では、柱の折損による急激な耐力低下を伴う崩壊となる。一方、全体崩壊形では、一部またはすべての柱が折損せず、壁の損傷進展とともに緩やかな耐力低下となるため、1層崩壊形に比べて高い変形性能が期待できる。したがって、大垂壁付き架構の変形性能を評価する上で、架構の崩壊形の把握は有用かつ重要であることを指摘した。 2. 詳細骨組解析モデルの構築 骨組解析モデルを用い、大垂壁付き架構の実験シミュレーションを行った。本解析モデルの特長は、①接合部でのほぞの引抜、②柱の折損の2点を考慮したことである。これにより、実験における復元力特性や軸組の曲げモーメント分布を概ね説明できることを確認しており、解析的な検討を可能とした。 3. 耐力および崩壊形の簡易推定式の提案 これまでに蓄積した実験結果に基づき、大垂壁を有する架構について、耐力累加に基づく崩壊形の簡易推定式を提案した。提案式では、(1)で述べた架構の2つの崩壊形ごとの耐力を算定し、耐力が小さい方の崩壊形で崩壊形と耐力を評価する。耐力要素としては柱の曲げ抵抗と壁のせん断抵抗を考慮し、柱と壁の耐力累加によって架構の耐力を概算する。提案式により、架構の崩壊形を手計算レベルで推定でき、変形性能を向上させるような耐震補強設計が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、架構の静的加力実験の実施および骨組解析モデルの構築を行い、架構の崩壊形と変形性能や、柱折損時の曲げモーメントなどに着目し、力学的特性について新たな知見が得られている。また、蓄積した実験結果を基に、耐震性能評価法として耐力および崩壊形の簡易推定式を提案した。年度初めに予定していた柱の曲げ耐力低下要因の解明は次年度に持ち越すが、すでに柱脚回転拘束や壁増設による架構の補強効果確認実験を実施しており、今後予定していた耐震補強法の提案に向けた検討を始めている。以上より、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1. 柱の曲げ耐力低下メカニズムの解明 現在までに、大垂壁付き架構の柱は、接合部において曲げ強度の半分程度の縁引張応力度で折損する傾向があることを明らかにした。そこで、柱-横架材接合部に対して、大垂壁付き架構における接合部での応力状態を再現した静的加力実験を行い、応力分布やひび割れの進展状況などから、柱の曲げ耐力低下メカニズムを解明する。 2. 効果的な耐震補強法の提案 耐震性能が乏しい大垂壁付き架構について、必要耐震性能を満足するための効果的な耐震補強法を提案する。まず、実際に補強を施した架構についての静的加力実験より、補強効果を実証的に確認する。次に、詳細骨組解析モデルを用いて実験のシミュレーションを行い、耐震補強が架構全体の復元力特性や変形性能に及ぼす影響を把握する。そして、実験と解析の結果を基に、効果的かつ実施可能な複数の耐震補強法を示す。
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