研究課題/領域番号 |
17J01323
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 洋介 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | アミノ酸 / キラル分析 / 食品科学 |
研究実績の概要 |
本研究では代謝物のキラリティーを考慮した新規呈味性予測モデルの構築を行った上で、それらの呈味への寄与の有無についての解析を行うことを目的としている。研究対象となる食品を官能試験(外部委託あるいは研究室内の実施)に供する一方で、申請者が開発した新規分析法を利用して、代謝物のキラル分離分析を行う。そして、官能評価で得られた情報と分析によって得られた代謝物データを多変量解析によって統合し、従来より正確な呈味性モデルを構築する。また、多変量解析の結果からD-アミノ酸を含む代謝物のモデル構築への寄与の有無について吟味し、寄与が確認されたD-アミノ酸については、食品への添加実験や試料溶液ベースの簡素な模擬食品を作成することにより、更に詳細に解析を行う。最終的に得られた知見は、食品の品質設計や製造理論へのフィードバックに資することで、新規性および独創性の高い食品開発に貢献することができると考えている。 申請者は上記を研究目的とし、キラルアミノ酸の高感度一斉分析メソッドの構築を行った。まず質量分析計の測定パラメーターの最適化を行った。標準品アミノ酸を用いて、特にインターフェースパラメーター(電圧、ガス流量など)を仔細に検討することにより、nmol/mLオーダーの極低濃度アミノ酸の検出が可能なメソッドの構築に成功した。また、そのメソッドは幅広い定量範囲を示し、微量のD-アミノ酸の定量分析に有用であることを示した。 次に、既に申請者の研究室で開発したHPLC分離システムと本メソッドを組み合わせて、実際に実サンプルの測定を行った。サンプルとしては過去にD-アミノ酸の測定報告例がある黒酢を対象にし、結果的に全14種類のD-アミノ酸の検出および定量分析に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は研究員が既に構築した分析法の改良をベースに研究を展開した。従来の分析法はアミノ酸をターゲットにしていたが、より多くの代謝物を分析することを目的に、本手法の適応範囲を拡げた。まず、主要代謝経路に含まれる第一級キラルアミンおよびその前駆体を対象とした分析法の構築を目指した。従来の手法ではキラル分離することが困難だった第二級アミンなども分析対象として加えるため、カラムのスクリーニングを行い、分離に最適なカラムを検討した。結果的に、分析対象化合物はタンパク質構成アミノ酸に加えて、非構成タンパク質構成アミノ酸、核酸塩基、生理活性アミンなどを含み、計115種類の化合物の一斉分析が可能となった。その後、当該手法に用いる質量分析計の検出パラメーターの調整を行い、分析対象化合物の感度の最適化を行った。次に、構築した新規液体クロマトグラフィー-質量分析法の性能を評価するために、標準品溶液を用いて検量線を作成し、検出限界・再現性・直線性などの項目を吟味した。最後に構築した当該手法を食品分析(チーズ)に応用した。分析したチーズは熟成期間の異なる3種類のチーズで、本手法による代謝物プロファイリングの結果、熟成期間によって、含まれている代謝物は大きく異なり、熟成期間が増えるに従って特にD-アミノ酸の存在量は増加した。また、一方でヌクレオシド類は熟成期間の増加につれて減少していた。このような代謝物のキラル情報を反映した代謝物の精密なプロファイリングの報告は類が無く、国内外問わず学会発表では高い評価を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度における研究成果は既に投稿論文としてまとめ、提出済みである。また、今後はより網羅的な呈味成分分析系の構築を目的とし、本手法をジペプチドのキラル分析に応用する予定である。ジペプチドは2つのアミノ酸から生成され、N末端あるいはC末端でそれぞれの構造が異なる上に各々のキラリティーを考慮すると、対象とするジペプチドの数はジアステレオマーを計上せずとも1,500種類以上にものぼる。本システムで用いる液体クロマトグラフィー-質量分析法の性質上、検出された化合物の同定にはターゲット化合物の標準品が必要であるが、それらを化学合成などの手段ですべて用意するのは経済的な限界から現実的ではなく、今後の検討には何かしらの工夫が待たれる。
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