今年度は前年度に開発した非対称振動提示装置を用いて非対称振動の振動加速度に対応した牽引力錯覚における知覚特性評価を心理物理実験を通して明らかにした.振動加速度ベースの非対称振動波形の構成方法を示すことで本錯覚現象をインタフェースとして利用するための工学的方法論へと発展させる.機械的に正弦波振動の生成は容易である.そこで本研究では,普遍的な非対称振動波形の構成方法を示すために非対称振動波形のパラメータのなかでも周波数成分に着目した知覚特性を評価した.まず非対称振動のなかでも本錯覚に寄与する主要な周波数成分を明らかにした.心理物理実験の結果,基本波と第二次高調波で構成された非対称振動波形で構成されていることが重要であることが示唆された(N=8). 次に基本波と第二次高調波間の位相差に着目した知覚特性評価を行った(N=10).その結果,位相差が0 degのときは正方向,-180 degのときは負方向の牽引力が錯覚されることが明らかになった.また,方向が反転する閾値を求めた結果,-93.37 degであった.位相差が変わることで振動加速度の立上り・立下り時間の大小関係が-90 degを境に反転したため,錯覚される牽引力の方向が反転したものであると考えられる.よって,牽引力錯覚を生起させるには振動加速度の立上り・立下り時間が異なる時間方向に対して非対称な振動を提示する必要があることが示唆された.以上の結果より,牽引力錯覚を生起させるための物理量ベースの方法論が明らかになり,本研究で示した知見はボイスコイル型振動子を用いたマルチモーダル感覚提示の基盤になったと考えられる.
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