研究課題/領域番号 |
17J01389
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤井 裕紀 北海道大学, 大学院情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞メカニクス / 原子間力顕微鏡 / 発生 / 細胞分裂 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
本研究は、自作の原子間力顕微鏡(AFM)を用いたホヤ発生胚の細胞物性計測により、発生胚の細胞個々のメカニクスを解明することを目的としている。今年度は、1. ホヤ胚のAFM計測による弾性率の時空間マッピング計測から、発生胚の細胞分裂と陥入現象における個々の細胞メカニクスを解明した。さらに、2. 卵や発生胚で見られたサンプル形状に依存するAFM計測時の弾性率の変化について詳細に調べ、弾性率の形状依存性を補正する新しい弾性接触理論モデルを考案した。 1. AFMによるホヤ発生胚の1細胞分解能での弾性率計測と細胞内の骨格構造の阻害実験を組み合わせることで、胚発生における細胞のメカニクスを詳細に調査した。この実験により、アクチン繊維構造の阻害時に発生胚の細胞分裂時の細胞弾性率の増大が失われる一方で、アクチン繊維を結びつけるミオシンや細胞質分裂に必要な微小管の機能の阻害時には、この細胞分裂時の弾性率の増大が維持されることを明らかにした。さらに、胚の陥入現象で見られる個々の細胞弾性率の不均一な変化は、アクトミオシンの骨格構造変化に起因していることを明らかにした。 2. AFMでの弾性率計測では、これまでサンプルの傾斜角度は考慮されていなかった。しかしながら、生物の卵や型に入れて固めたハイドロゲルなどの立体的な柔らかいサンプルの弾性率をAFMでマッピング計測したところ、既存の弾性接触理論モデルを使用すると傾斜角度の変化に依存して弾性率も変化することを明らかにした。本研究では卵とゲルを用いたAFM計測実験により、従来のモデルでの弾性率の傾斜依存性を詳細に調べた。さらに、この結果を元にサンプル表面形状に依存する弾性率を補正・構成する弾性接触理論モデルを考案し、その有用性を実証した。 以上から、本研究は、生物の胚発生のメカニズムの解明と共に、AFMによる細胞集団組織の物性計測への展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で目標としていた、発生胚のレオロジー計測の実現はまだ達成できていない。しかしながら、阻害実験と組み合わせた弾性率計測により、計画以上に、胚発生において1細胞分解能での細胞骨格構造と細胞弾性率との関係を明らかにすることができた。さらに、計画段階では予期していなかったが、AFM計測において従来の弾性接触モデルでは、サンプルへのプローブ接触時の傾斜角度に依存した弾性率の変化があることが明らかになった。したがって、傾斜角度を持つサンプルの正確な弾性率を算出するための新たな弾性接触モデルの考案を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の計画通り、より詳細な胚発生のメカニクスの解明のため、原子間力顕微鏡を用いた発生胚のレオロジー計測を行う。また、発生胚全体のマッピング計測を実現する方法を模索する。これにより、発生胚を構成する全細胞を網羅する細胞物性の時空間的な変化を可視化し、細胞分化や組織形成に関わる個々の細胞の力学的な協同性や不均一性をより詳細に明らかにしていく。
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