1.上皮細胞は単層の細胞集団として発生や創傷治癒などの機能を示すことが知られている。このような機能のメカニクスについての研究として、牽引力分布の計測が行われているが、硬さ(ヤング率)の空間的な分布は不明であった。そこで、上皮細胞集団を原子間力顕微鏡(AFM)計測し、ヤング率の空間分布を調べた。これにより、細胞間距離を超える距離でヤング率の相関があることを明らかにした。さらに、アクチン繊維構造の阻害や、E-カドヘリン細胞接着タンパクの阻害をすると、ヤング率の細胞間の相関が失われた。このことから、アクチン骨格の細胞間にまたがる構造が、細胞集団的なヤング率の空間分布を形成していることを明らかにした。この内容についてまとめ、国際誌への論文掲載を行なった。 2.昨年度に提唱した、傾斜を持つサンプル表面で定量的なヤング率を計測できる弾性接触モデルを生体サンプルに適用し、ヤング率の傾斜依存性を調べた。その結果、大きい傾斜角度を持つホヤ胚で、傾斜部分のヤング率が補正されたことにより、同じ細胞内で生じていたヤング率値の勾配が解消された。これにより、本解析モデルが3次元的な構造を持つ細胞集団サンプルのAFMによるヤング率マッピング計測に有用であることを明らかにした。この内容について、国際会議での口頭発表と国際誌への論文掲載を行なった。 3.昨年度までに行った、ホヤ発生胚のAFM計測から得られた知見を元に、より詳細にホヤ胚のヤング率計測を行い、1細胞分解能で発生胚の細胞メカニクスを明らかにした。胚の陥入領域における細胞ヤング率の不均一性に加えて、胚の最初期の細胞分化が見られる領域で、神経索や脊索となる分化運命の異なる隣接する細胞のヤング率が異なっていることをAFM計測により新たに明らかにした。これらの成果についてまとめた論文を現在執筆中である。
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