平成30年度、申請者はフッ素化学産業における基幹原料であるテトラフルオロエチレンと地球上に豊富に存在する二酸化炭素からトリフルオロアクリル酸エステルの合成反応の開発に取り組んだ。Ni(cod)2と種々の配位子存在下、TFEと二酸化炭素の酸化的環化反応について検討した。しかしながら、高収率かつ高化学選択的にTFEと二酸化炭素の酸化的環化反応を進行させる事は困難であった。これは二酸化炭素のNi(0)に対する配位力がTFEと比較して低く、2分子のTFE間での酸化的環化反応およびTFEのCーF結合へのNi(0)への酸化的付加が優先的に進行した事が原因であった。なお二酸化炭素のNi(0)に対する配位力向上を目的として種々ルイス酸を添加剤に用いたがTFEと二酸化炭素との酸化的環化反応は進行しない事は確認している。ここで得られた知見を踏まえ、Ni(0)に対する配位力が比較的高いアルデヒドやN-スルホニルイミンを基質に用いたところ、TFEとの選択的な酸化的環化反応が進行し、ヘテロニッケラサイクル鍵中間体を経る還元的カップリング反応が進行する事を見出した。また得られた生成物は塩基を作用させる事でトリフルオロビニル化合物へと変換可能であった。 また申請者はニッケル触媒を用いた触媒反応に代わり、Cu触媒存在下β-フッ素脱離を鍵段階とするTFEと二酸化炭素の反応を検討した。別途合成したトリフルオロビニル銅種に対し、二酸化炭素を作用させると目的のトリフルオロアクリル酸エステル銅が収率53%にて得られた。そこでCu触媒存在下、TFEと二酸化炭素とシリルボランの反応を検討した結果、トリフルオロアクリル酸エステル銅が痕跡量にて生成する事をNMR測定により確認した。本結果は今後、TFEと二酸化炭素を用いたトリフルオロアクリル酸エステルの触媒合成に関する研究に重要な示唆を与える結果である。
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