研究実績の概要 |
今年度は, メビウス・エネルギーの離散化について, Salzburg大学のSimon Blatt氏, 埼玉大学の長澤 壯之氏と取り組んだ. エネルギーの離散化とは多角形に対するエネルギーのことである. 離散化エネルギーの勾配流は連立の常微分方程式になる. これは元のエネルギーの勾配流を空間方向に離散化したものになっているはずで, 数値実験を行うときに有効と考えられ, これが離散化を考える動機の一つである. メビウス・エネルギーの離散エネルギーは少なくとも2種が知られている. Kim-Kusnerの離散エネルギーとSimonによる最小距離エネルギーである. これらのエネルギーは, メビウス・エネルギーの名前の由来であるメビウス不変性という性質を失っている. ここでは, メビウス不変性という構造を保ったまま離散化が可能かを考え, 2種の離散化を得た. 一つは, 共形角をメビウス不変を保ったまま離散化することで離散エネルギーを定義した. これは多角形の頂点数を増やしていくとメビウス・エネルギーにΓ-収束することも示された. 他方は, 石関-長澤の分解を離散化する方法で別の離散エネルギーを定義した. これらは, 石関-長澤の分解による分解エネルギーを解析することで得られたものである. エネルギー密度はメビウス不変性を持たないが, その積分値がメビウス不変性になる. ここでは, 分解エネルギー密度に積分値が0になるような適当な量を加えることでメビウス不変なエネルギー密度になることが分かった. これ自身は興味深いものと思われる. こうして書き直された分解エネルギーを離散化することで, 石関-長澤の分解のメビウス不変離散版を構成した. これらの成果は, 共同研究者により, 複数の研究集会と日本数学会で発表された. また, 2つの論文として纏め, 学術誌に投稿中である.
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