近年、蛋白質の凝集は疾患の発症に関連することが発見されてきたことを背景に、凝集機構の解明を目指した研究が多く行われている。数ある研究を通して凝集体には、秩序だった構造を持つアミロイド線維とアモルファス凝集の主に2種類存在することが知られるようになった。しかし、形成過程における両者の関係性は不明瞭である。そこで本研究では、「透析アミロイドーシス」と呼ばれる疾患の原因となるbe-ta2ミクログロブリンを用いて、様々な条件下で凝集形成実験を行った。 そこで、私が注目した効果が温度である。一般的に、温度が上昇すると蛋白質の凝集形成が加速される。これは高温状態では変性が引き起こされ、疎水性相互作用が強まるためであると考えられている。アミロイド線維とアモルファス凝集の形成についても、蛋白質の変性が関与している。しかし、本研究において両者の凝集体はともに高温で解け、可溶状態までになりうることが示唆された。また、アミロイド形成能のある蛋白質についてのみかもしれないが、アモルファス凝集は温度上昇によってアミロイド線維へ転換することが新たに分かった。この現象は、温度と塩濃度を軸にした相図として表現可能であり、本研究により、温度に対しても競争的機構が適用できることを示した。 以上の結果から、アミロイド形成能を持つ蛋白質は同時にアモルファス凝集を形成する潜在性を持ち、両者の競争的に起こる機構が明らかとなった。さらに、アモルファス凝集からアミロイド線維へと転換し得ることから、蛋白質の凝集についてオストワルドの段階則のように最安定な種へと成長していく反応が存在することが示唆された。そして、このような機構の理解は、たとえアミロイド線維のみが原因と考えられる疾患であっても、2種類の凝集体に目を向ける必要性があることを示すだけでなく、疾患発症の根本的な原因を生物物理学的に理解する手がかりとなるものである。
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