気孔開口を駆動する孔辺細胞プロトンポンプAHA1は、細胞質から細胞膜への局在化プロセスによって、その活性の一部が調節されていることが明らかにされている。この局在化には、神経細胞における神経伝達物質の放出を調節するMunc-13タンパク質様の因子PATROL1が関与し、この因子の細胞質から細胞膜近傍への移動によって執り行われる。PATROL1の動態は、Phosphatidylinositol 4-kinase (PI4K) 阻害剤であるPAOによって阻害されることが報告されていることから、PATROL1を介した気孔の環境刺激の感知・応答に、セカンドメッセンジャーや膜交通に関わる因子が関与しているのではないかと考えられた。本年度は、気孔の環境応答に関わる制御物質を探索するために、様々なセカンドメッセンジャーや膜交通に対する阻害剤の存在下で、高CO2処理、暗処理、また、気孔閉鎖を促す植物ホルモンであるアブシジン酸 (ABA) の処理を行った場合の気孔応答を調べた。その結果、PAOによってCO2応答性が、また、Phosphatidylinositol 3-kinase (PI3K) 阻害剤であるLY294002によって暗応答性がそれぞれ特異的に阻害された。PATROL1の動態を全反射照明蛍光顕微鏡を用いて調べたところ、PAOと LY294002の特異的な阻害効果に合わせ、PATROL1の孔辺細胞内ドット密度にも変化が観察された。これらのことから、PI4KとPI3Kはそれぞれ気孔のCO2、光シグナル伝達経路に重要な役割を果たしており、これらのシグナル伝達経路にPATROL1も関与していることが示唆された。この結果に基づき、更なるPATROL1の作用機作を探るために、PAOによる気孔のCO2応答阻害効果を指標にした変異体スクリーニングを、サーマルイメージングの手法を用いて実施した。
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